水槽の人魚は、13年越しの愛に溺れる
「返済目処は立ったんだってよ。もう、いいだろ」

「ふふ。きっちり返済して頂くまで、あたしは海里さんの監視役を辞めるわけにはいきません」

「真珠」

「そんなにあたしが欲しいのなら、あたしを求めてください。海里さんのように」

「いい加減にしろ。オレと海里を比べんな」

「あら。あなたがあたしに抱く愛は、面と向かってあたしを求められないほどに低レベルなのですね。あたしはあなたのためなら、全てを捨ててでも構わない程、愛していますのに……」

「クソ女が……」

「さぁ、どうしますか。二つに一つですよ。あたしに愛を囁くか、このままあたしを野放しにするか……」



 紫京院は妖艶な微笑みを浮かべると、碧に迫った。

(このまま大人の関係に発展しそうだなぁ……)

 知り合いの情事を盗み見するほど、暇ではない。碧の決断を聞く前に、真央はそっと床にペンギンとイルカのぬいぐるみを横たえた。

 音を立てないように気を使った真央は、そろりそろりと足音を立てないように、その場を後にする。



(あんな所で始めたら、映像に残るよね……。いいのかなぁ……)


 真央は顔を赤くしたり、青くしたりと忙しない。

 館内には24時間稼働している監視カメラが存在する。紫京院は海里に、碧との行為を見せびらかしたいのだろうか。

 さっぱり理解できなかった。



(私と海里は相思相愛、紫京院さんと碧さんも相思相愛なら、紫京院さんの目的は達成された。もう、海里が紫京院グループに縛られることはないよね……?)



 6年前、碧が里海水族館を退職したのは、周りの反対を押し切り借金の肩代わりを約束したことに反発したからだと聞いている。

 碧は海里の借金返済に力を貸すために里海水族館へ戻ってきたはずだが……あの様子なら、紫京院と思いを通じ合わせることも目的の1つだったのだろう。


(二人が幸せになれるなら、なんでもいっか)


 真央は悶々と考えを巡らせていたが、深く考える必要などないと結論づけた。



「海里と私、紫京院さんと碧さん。二組のカップル成立!誰も悲しむことなくハッピーエンド!これしかないよ!」

「わひゃあ!?お、お姉ちゃん……?どうしたの……?大声出して……」

 数ヶ月ぶりに定時で里海水族館から退社し帰路についた真央は、自宅に戻るとリビングのドアを勢いよく開けて叫ぶ。

 妹の真里亜が驚く姿を見た真央は、微笑みを浮かべると両手を高く突き上げた。

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