水槽の人魚は、13年越しの愛に溺れる
「真里亜と社長さんも入れたら3組だね!がんばろー!目指せ、合同結婚式!」

「わ、私は、数に数えなくていいよ……!」



 妹はリビングに姿を見せた姉が叫んぶ声を聞いて萎縮しているが、真央は真里亜が社長に言い寄られて満更ではないことを知っている。

 真央が正体をバラすまで、社内では逃げ回っていた真里亜も、今では観念してひとまず知人から始めることにしたようだ。

(真里亜を売って、借金を肩代わりして貰おうと社長へ直談判したのが、間違いじゃなくてよかったなぁ)


 この調子で、紫京院と碧にもお節介を焼けばいい。

 真央は早速、翌日から行動を開始した。



「碧さんと紫京院さんって、お付き合いしていたとか、聞いたことありません?」

「交際……?聞いたことないなぁ」



 二人のことをよく知る飼育員たちに聞いて回ったが、碧と紫京院の二人は昔から、交際のこの字も匂わせたことがないほど不仲であったらしい。

 誰も彼も碧と紫京院は犬猿の仲で、近づけさせるべきではないと語った。



(ふむふむ……。二人が犬猿の仲なのは有名な話……。完璧なカモフラージュと言うべき?それとも……)



 どれほど考えても、真央一人では答えが出ない。一人で唸っているより海里の協力を仰いだ方が早いと認識した真央は、海里にお伺いを立てる。



「ねぇ、海里。海里は、碧さんと紫京院さんがお付き合いしていたら、嬉しい?」

「……嬉しいも何も……」



 海里に紫京院の話をすれば、含みのある言葉を紡いだまま押し黙る。真央が続きを促せば、海里は小さな声でボソボソと言葉を紡いだ。



「……あの二人は惹かれ合っている。俺があの女を嫌いでも、碧があの女を好きなら……口を出す権利はない。碧が、俺と真央を見守っているように……」

「海里……成長したね……?」

「子ども扱いするなら、襲うぞ」

「えへへ。海里、ぎゅーってする?」

「……ああ……」

 海里の生返事を聞いた真央は、勢いよく海里の胸元へ飛び込んだ。

 海里が紫京院を嫌いな理由は、どうやら海里から兄と慕っていた碧を奪ったことに起因しているらしい。

 碧は海里の相手は真央しかいないと認めているが、海里は碧の相手が紫京院であることを、受け入れられないようなのだ。
< 114 / 148 >

この作品をシェア

pagetop