水槽の人魚は、13年越しの愛に溺れる
(どうしたら、海里は紫京院さんを受け入れられるんだろう……)
考えを巡らせた真央は、海里にある提案をした。
「そうだ!碧さんのことを取られたと思うなら、紫京院さんのことをお姉ちゃんと慕えばいいんじゃないかな!?」
「却下」
「ええー。名案だと思ったのに……」
「俺は、真央以外の女など必要ない」
「それは、嬉しいけどね……?」
「真央だって、俺以外の男は必要ないだろ」
「うん。それは、もちろん……」
「真央。愛してる」
海里のペースに絡め取られてしまった真央は、耳元で囁かれた言葉を聞いて、顔を真っ赤にしている。
(これは一杯、食わされたかなぁ…)
真央が頬を抑えて声にならない悲鳴を上げれば、海里は真顔で真央に告げた。
「愛している人に愛していると伝えることの、何が悪い」
「な、なにも悪くないです……」
海里は真央の敬語が気に食わなかったようだ。両手で顎を押し無理矢理視線を合わせると、真央に凄む。
「真央と俺は、恋人同士だ。敬語はやめろ」
「は、はい。ごめ……ん……」
「わかればいい」
海里はそのまま顔を近づけ、額、両頬、顎や目元に唇を寄せた。愛していると唇で伝えてくる海里の愛に溺れそうな真央は、水槽の中を泳ぐようにバタバタと手を動かす。
「かい、り……」
海里は受け止めきれない愛に溺死してしまいそうな真央の手を右手で掴み、首を振った。
真央も無言で同じように首を振ると、掴まれている手を両手で握って引き剥がそうとする。
真央の両手に、海里の左手が重なった。
「海里……」
真央の瞳は熱を帯び、荒い息を吐き出している。
海里の右手、真央の両手、海里の左手がサンドイッチ状態になり、後に引けなくなった二人は押したり引いたりぐるりと回し、どうにか手を離そうと試みていた。
絶対に真央を離す気はない海里と、溺死する前に海里から離れたい真央。
二人の様子を見かねて声をかけたのは──噂の人物だった。
「ダンスでも、踊るのですか」
どちらも引かない状態で数分揉み合っていた二人は、呆れ顔の紫京院が巨大水槽の前に観客を伴いやってきたことにより、ぱっと手を離す。
紫京院は物珍しそうに2人を見つめていたが、仕事を優先したようだ。