水槽の人魚は、13年越しの愛に溺れる

 巨大水槽の中で泳ぎ、ショーを披露するのは楽しい。


 真央は普段通りに仲間たちとマーメイドスイミングショーの公演を終えると、その後に行われる撮影会の準備を行うため、水槽から出る準備をする。

 真央がモノフィンとフィッシュテイルを上下に動かし、手を振る観客たちに別れを告げて巨大水槽から上がる為、上に向かって泳ぎ始めた時だった。



『……するんだ!』



 水の中からでは、観客席で大声を出されても、はっきりと単語を聞き取れない。

 見覚えのない年配の男性が、後方から大声で声を荒らげたことしかわからない真央は、観客たちを落ち着かせる為にくるりと一回転してから、人差し指を唇に当てた。



『……なんだと……!』

『本日はご来場頂きありがとうございました』



 海里が拡声器でアナウンスをしながら、真央に向かって耳元で左手をくるりと回し、上部を指差した。

 館長命令であれば仕方ない。まだ男性は海里に向かって怒鳴りつけているようだが、真央は大急ぎで水槽から出た。

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