水槽の人魚は、13年越しの愛に溺れる
(随分と態度が大きい、横暴な人だなぁ)
目には目を、歯には歯を。失礼な態度をするやつには、失礼な態度で返すのがお似合いだ。
真央はニコニコと笑顔を浮かべながらも、目が笑っていなかった。
お客さんの前で、水族館が赤字であることを暴露したのだ。せっかく楽しい思い出を得た観客が経営難の話を聞いて、このあと水族館を楽しむことができなくなれば──今後の運営にも、支障が出るだろう。
真央は携帯を見てから来ればよかったと反省した。
(退場したお客さんたちが経営難だってこと、SNSに書き込んだりしたら……燃えるよね……)
考えるだけでも頭が痛い。その対応は最悪、マーメイドスイミング協会の仲間たちに考えてもらうことにしよう。
怒り狂い、真央と対話をする気のない男性と睨み合うこと数分──膠着状態が続くかに思われた状況を打破するべく、沈黙を破ったのは海里だった。
「何をしている!この無礼な女をつまみ出せ!」
「無理です」
「貴様……!」
「……紫京院さんから支援を申し出て頂いたからこそ、今の里海水族館があります」
「ならば……!」
「支援を申し出て頂いたことは、感謝しかありません。しかし──里海水族館の館長は俺です。俺は里海水族館を赤字から黒字に改善してみせます。もう、紫京院さんに迷惑はかけません」
この場に紫京院真珠の姿は見当たらないはずなのに──海里は紫京院の名前で男性を呼んだ。