水槽の人魚は、13年越しの愛に溺れる
(他に言うこと……?海里に、伝えたいこと……)

 離れていた12年間、真央は一度も海里を忘れたことなどない。

 伝えたいことは、山ほどあった。

 海里に会ったら、最優先で伝えなければならないこと──。

「約束、した、よね……?私達、再び巡り合ったその時は……!」


 涙に濡れた瞳で見上げてくる真央を見つめる海里の瞳は、揺れている。

 海里の瞳が真央を直視できずに、揺れ動く理由がわからない真央は──海里に告げてはいけない言葉を、口にしてしまった。


「ずっと、ずっと、一緒に、いるって……っ!」


 真央は12年間、海里に会える日を待ち望んでいた。12年越しに再会出来たのに、海里の顔色は優れない。

「海里……?」

 12年前の海里なら、真央に会いたかったと囁き、優しく抱きしめてくれるはずなのに──海里は一度目を閉じると、冷たい瞳で真央を見下した。


「……まだ、信じていたのか」

 真央は海里から、何を言われているのかよくわからない。

 真央と海里は、思いを通じ合わせていたはずだ。12年間離れていただけで、思いが薄れるような生易しい恋をしたつもりはない。真央は海里との恋を、運命だと思っている。

 真央は海里以外を好きになどならなかったし、海里だって真央を一途に思ってくれていると信じていた。

「私達……相思相愛、だよね……?」

 真央は恐る恐る海里に問い掛けるが、彼は真央に向かって笑顔で肯定することはない。

「相思相愛?バカバカしい。子どもの頃にした約束を、律儀に守る馬鹿はお前だけだ」

 真央の言葉を鼻で笑った海里は、真央から身体を離した。

(どうして…?)

 真央はどうしたらいいのか、わからない。離れていた12年間の間に、何があったら海里はこれほどまでに真央へ冷たく接するのだろうか。

 不思議で堪らない真央は、バタバタとフィッシュテイルを動かしながら、海里の背中へ叫ぶ。

「どうして、そんな意地悪言うの……!?」

 真央の問いかけに、海里は答えない。どうして、なんでと困惑する真央に、海里は背を向けたまま残酷な言葉を紡ぐ。
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