水槽の人魚は、13年越しの愛に溺れる
「お父様。里海水族館を隠れ蓑に、もう十分私腹を肥やしたことでしょう。いい加減、手を引いたらいかがですか」

「な、なんだと……!?」

「海里さんのご両親が亡くなってから、6年が経ちました。お父様が海里さんのお父様に出会ってから、10年ほど経過したでしょうか。もう、十分です。海里さんはお父様の代わりに、私たちへ青春を捧げたのですよ。これ以上、何を望むのですか」

「十分?何が十分なのだ!私は何一つこの男に返してもらってなどいない!」

「海里さんに罪はないでしょう。彼の愛する人がこうして迎えに来たのならば、悪者であるあたし達は身を引くことに致します」

「真珠!私達が悪者だと言うのか!?」

「お父様。地位や名誉。すべて手に入れたのですから、もういいではありませんか。大声で怒り狂うなど……社会人として、社長としても……みっともないことです」

「うるさい!貴様は黙っていろ!」



 突如として、親子喧嘩が始まってしまった。


 他所でやってくれと思わずにはいられない激しい親子喧嘩を、部外者の真央と海里が止めに入れるわけもない。真央と海里、里海水族館のスタッフは、言い争う親子を見つめることしかできなかった。

(やっぱり、紫京院さんは碧さんが好きなんだ……)


 真央は海里と視線を合わせ、碧を呼ぶべきではないだろうかと考える。

 視線を合わせた海里は首を振り、碧を呼びに行く必要はないと真央の考えを拒絶した。碧は海里よりも気性が荒い。いくら父親だろうと愛する人を怒鳴りつける姿を見たら、手が出てもおかしくないと考えたのだろう。

 真央は不安そうに、罵り合う親子喧嘩を見守ることしかできなかった。
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