水槽の人魚は、13年越しの愛に溺れる
 床に投げ出される前に真央を抱き抱えた海里は、真央に文字が表示された携帯のディスプレイを見せた。



『里海水族館って赤字経営なの?』

『変なおじさんが乱入してきて揉めてたぁ』

『あれって紫京院グループの社長だろ?』

『里海水族館どうなっちゃうの?』

『もうクラファンでお金集めてー』



 案の定、SNSでは退場後に騒動を目撃した観客達が小耳に挟んだ内容を書き込んでおり、大きな騒ぎになっていた。

 今の所里海水族館が閉館にならないようにもっとお金を使おう、支援しようとポジティブな方に流れているからいいが、資金繰りが苦しいから来場客から必死に金を集めようとしていると噂を流されでもしたら大問題になる。



「泡吹いて倒れそう……。しょ、消火……しょ、消火しなきゃ……!」

「ゲリラで開催している催しを、正式なショーとして打ち出すか」

「公式SNSで謝った方がいいよね……?ネガティブキャンペーンはよくないよ……!」

「この炎上を逆手に取ればいいだけです」

「紫京院さん!?」

「このまま同情を誘って呼びかければ、借金完済は可能でしょう。紫京院グループは、数時間後には手を引くと正式に案内を出します。里海水族館の存続は来場者の皆様に掛かっていると、こちらから表明を出せばいいのですよ」

「そんなことしたら入り切らないほど人が来て、大変なことになっちゃう!あー、うー……。やっぱり社長さんにお願い……」

「……クラウドファンディングか……」

「海里?」

「銀行に期限を迫られるようなら、検討する。紫京院、いつまでも持ち場を離れているわけにも行かないだろう。真央、グッズ担当と話がしたい。連絡先を教えてくれ」

「えっ?それは構わないけど……」



 春の嵐は思わぬ所からやってきて、恐ろしいスピードで去って行った。
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