水槽の人魚は、13年越しの愛に溺れる
 どうにかしろと言われても、どうにかできるわけがない。顔と名前をしらない10人目のマーマンをどうしたらどうにかできるのだろうか。

 こっそりと顔と名前を教えてくれたら、どうにかする自信はあるのだが……。



「む、無理だって!顔と名前もわかんない人を説得するなんて!」

「真央ならきっとできるわ。館長に話をしてみて」

「海里に……?」



 何がなんだかよくわからないままに、10人目のマーマンを抜きにして公演の練習が開始された。

 会長は本当に10人目のマーマンを公演に引きずり出すつもりのようで、真央に頑張れと言って背中を押した。



(頑張れと言われても……顔と名前がわかんない状態で、どうやって説得するんだろう……?)



 真央は道中悩みながらも、ひとまず海里に話をしろと言われたので、海里に会うことにした。



「海里。あのね、マーメイドスイミング協会の公認マーメイド10人で公演をする話だけど――」

「聞いている」

「実は10人目に事情があって、出てこれないかもしれないの。チケットを10人全員出場と謳って販売したら、当日お客さんを悲しませちゃう。ここは、素敵なサプライズがあるよ程度に収めて、9人の名前を全面に押し出す感じで……」

「真央。公演の振り付け、見せてくれないか」

「今?それは構わないけど……」



 海里が見たいと言うので、真央は螺旋階段を使って水槽の上部までやってきて、身支度を整えると巨大水槽の中に飛び込んだ。



 マーメイドとマーマン。10人のコラボレーションを想定しているためか、細かいポジションチェンジやら泳ぐ動作が創作ダンスのようにきっちり決められている演目だ。真央も笑顔を浮かべる余裕もなく、真剣な表情で水槽の中を揺蕩っている。



 海里は真央の泳ぐ姿を真剣の腕組して見つめていた。

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