水槽の人魚は、13年越しの愛に溺れる
こうして、人魚と海の王子様は
「収まるところに、収まったじゃねぇの」
「碧さん」
借金完済の目標金額に達成した報告を海里から聞いたのだろう。碧が売店へとやってきた。
どうやら休憩時間らしい。平日の昼間は客足もまばらで、真央はゆっくり碧と話ができた。
「真央はすげーな。海里を水槽の前から引きずり出したかと思えば、借金完済した上、女狐を黙らせて、約束通り海里の嫁になるなんざ……思っても見なかったぜ」
「紫京院さんのこと、名前で呼んであげないんですか?」
「誰があんな女のこと、名前で呼ぶかよ」
「え、でも……。二人きりのときは名前で読んでいましたよね」
「は?幻聴じゃねぇの」
「あはは……隠したいなら私はそれ以上問い正したりはしないですけど……。もう、隠す必要はないと思いますよ?私、お似合いだと思います。紫京院さんと碧さん」
「アホくせぇ。ちゃっかり余り物同士でくっつけようとしてんじゃねぇよ」
真央はてっきり碧と紫京院が交際しているとばかり考えていたのだが、どうやら二人は隠れて交際しているか、真央の見間違いだったということで押し通すつもりらしい。
碧と紫京院には二人にしかわからない事情があるのなら、突っ込んで聞くのも野暮だろう。真央は難しい顔の碧を見上げた。
「今に見てろよ。俺も面倒見てるペンギン達を水族館の名物まで育て上げてみせる!」
「頼りにしてまーす!」
「おうよ。そういや、海里の奴。よく俺の様子見に来るけどよ……。あいつ、なんか俺のこと言ってたか?」
「さぁ……?碧さんの悪口は聞いたことないですけど……。話しかけたいけど、忙しいから遠くで見つめているのかもしれないですね」
「女子かよ。めんどくせー」
「海里が手の掛かる弟分なのは今に始まったことではないですよね?これからも兄貴分として面倒、見てあげてください」
「……しゃあねえなぁ」
碧は真央の頭をぽん、と叩いて仕事に戻った。
9年前の件もあり、海里は碧に話しかける勇気がないのかもしれない。そのあたりは、陽気で明るくコミュニケーション能力が高い碧に任せるしかないだろう。
(なるようにしかならないよね)
真央が心配するようなことも起きなければ、二人の関係はきっと時間が修復してくれるだろう。
真央は海里と碧の仲が、13年前のように好転するまで。遠くから見守ることにした。