水槽の人魚は、13年越しの愛に溺れる
(ずっと夢に描いていた光景が実現したなんて、夢のようだなぁ……)
真央はいつも以上に気合を入れて全身を大きく使い、海里と水槽の中で泳ぎ回る。
真央が身体を見せつけるようにフィッシュテイルを動かせば、海里は照れくさそうに握り拳を作って筋肉をアピールする。その様子を見ていたウミガメのウミがくるくると甲羅を回転させてスピンを披露し、観客のハートガッチリと掴む。
何もかもが順調で、永遠に続けばいいのにと思わずにはいられない。あっという間の5分間だった。
「楽しかった!」
「……俺も。楽しかった。ありがとう、真央」
「どういたしまして!」
巨大水槽から出て床に座った海里と真央は、互いにお礼を言い合い抱き合った。その様子を仲間たちが微笑ましそうに眺める。
「真央、館長さん。感動に浸っている場合じゃないよ」
「ほら、早く着替えて!ペンギンショーとイルカショーの方も見に行かなきゃ!」
「頑張れ、館長夫婦!」
「まだ夫婦じゃないよ……!」
メインイベントを終えた二人には、まだまだやることがあった。慌ただしく着替え終えた二人は、10分後に始まっているかとペンギンのデビュー公演を二人揃って見学しにいく。
「何度かご来場頂いた方はおわかりだと思いますが、若葉マークをつけて早半年……。飼育員と海の仲間たちは、切磋琢磨し合いながら芸を磨いてまいりました」
「初めてこのステージに立ったとき、海の仲間たちと飼育員は不慣れで、失敗ばかりでした。しかし!今日は練習に練習を重ね、培ってきた努力の成果をお見せしたいと思います!」
「それでは参りましょう!」
エンターテイナーとして、今まで無料で練習をしていた姿をこの場所で披露していたことを説明した碧は、ボーリングのピンに見立てて逆三角形に並ぶ10匹のペンギンに目掛けてボーリングの構えを取り、ボールを投げつけた。
もちろん、ボールは当たっても痛くない、子どもが外遊びに使う、空気で膨らむボールだ。重いボーリングの玉を投げつけたりなどすれば、ペンギン達が怪我をしてしまう。事前に説明をした上でボールを投げつけた碧のボールがペンギン達に当たると、両手をパタパタと動かして後ろに倒れていく。