水槽の人魚は、13年越しの愛に溺れる
「おお、なんと!ストライクです!初めてこの芸を披露したとき、ペンギン達はボールを敵と認識し、嘴で攻撃していました今ではこうしてボールが転がると、自主的に倒れるようになりました!これはとても大きな変化です!皆様、盛大な拍手を!」



 拍手を求められた観客たちは、パチパチと音を立てて拍手をする。1匹のペンギンが大きな音にびくりと身体を震わせて反応し、群れを外れてパタパタと碧の所までやってきてしまう。



 碧は慌てる1匹のペンギンを抱きかかえると、観客たちに笑いかけた。



「こいつは音に人一倍敏感でビビリなんですよ。いやー、やっぱだめだったかぁ」

「くわっ、くわー!」

「おー、よしよし。頑張った、頑張った!こいつは抜きにして……おおっと」



 音に人一倍敏感なペンギンは、碧の頭によじ登りポーズを取った。

 碧が頭にペンギンを載せたままくるりと回っても、音に人一倍敏感なペンギンは危なげもなく両手を廣げて頭の上に立ち続けていた。恐ろしいバランス感覚だ。観客たちは思わず拍手をしようと手を合わせるが、事前に人一倍音に敏感であると説明されたことにより、自重したようだ。ペンギンがバランスを崩して落ちないように、控えめな音を立てない拍手が響く。



「ペンギンに配慮して頂きありがとうございます!こいつも落ち着いたみたいなんで、次の演目にいきましょう!」

「……流石だな」

「え、あ、うん……」

「トラブルも演目の一部として取り入れ、観客を楽しませる。碧は生粋のパフォーマーだ」



 海里が褒めるのも当然だ。

 ペンギンが頭の上に乗るようなパフォーマンスは事前に説明など受けていないのだから。碧はわざとペンギンを抱きかかえることにより、頭の上に誘導したのだ。トラブルも観客を楽しませる娯楽に変える。碧でなければ、群れ飛び出てきたペンギンを前に対応を迷う場面だっただろう。



 その後は何事もなくショーは進んでいき、イルカショーも含めて大成功を収めた。

 真央と海里が見ている必要もなかった。



「やべーわ。初っ端から事故るかと思った……」



 終演後、碧を労いに行った真央と海里に、10匹のペンギン達をブラッシングしながら碧は率直な感想を吐露した。

 どうも、頭の上にペンギンを乗せるのは碧も意図したものではなかったらしい。



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