水槽の人魚は、13年越しの愛に溺れる
 チャプチャプと、モノフィンで水をかき分ける音がする。



 海里と真央の二人は、フィッシュテイルとモノフィンを足につけ、巨大水槽で二人仲良く泳いでいた。


「海里のマーマン姿、見慣れないからかなぁ?ときめくなぁ……」

「海パンがフィッシュテイルに変わっただけじゃないか」

「そうだけど、ね?そもそも海里が服脱いだ所、ちゃんと見るのは初めてだから……」


 引きこもっていた割には、筋肉質な上半身を眺めながら真央は仰向けにたゆたっている。海里は呆れているようだったが、褒められたことに関しては満更でもない様子だ。


 マーメイドスイミング協会に所属する10人目のマーマンが海里であると知った真央は、海里に頼み込み、仕事終わりに巨大水槽の中で泳ぐことになった。


『私が巨大水槽で泳いだとき、溺れても助けられるように。ちゃんと練習しておいてね』


 海里は成人してすぐに真央との約束を守るためにマーメイドスイミングの資格を取得したらしい。名簿作成や資格作成の手続きをするため、会長にだけ正体を明かしていた海里は、口止めをしていたようなのだ。

 会長は海里の意志を尊重し続け、10人目のマーマンであることを何十年と隠し続けた会長と海里は周りを欺く天才なのだと思わずにはいられない。


「私ね、海里のことは陸の王子様だと思っていたの。人魚姫が好きになった、王子様に恋をした人魚姫は、勘違いをして……泡になり、消えてしまうの。人魚姫にふさわしいのは、妹だけどね」

「妹さんか……」

「人魚姫は一番末っ子でしょ?人間に恋をした人魚のお姫様は、私じゃなくて妹なの。私は、うーん。人魚のお姉さんかな。そう考えたら、海里がマーマンでよかったのかも」

「……俺と真央は人間だよ」

「うん。私達はなんちゃって人魚だもん。インスタントマーメイド?」

「フィッシュテイルとモノフィンをつければ3分でマーメイドやマーマンになれるのは間違いではないけど……カップラーメンみたいな存在として定義づけるのは、ロマンがないよ」

「ろまん?」

「許されない恋より、同族で愛し合う方が幸せになれる」

「うーん、んー?」


 真央は首を傾げる。

 人魚姫と王子に当てはめた時に導き出される、例え話の答えなのは想像に難くない。マーメイドとマーマンにしろ、人間同士にしろ。二人は同族だ。
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