水槽の人魚は、13年越しの愛に溺れる
 真央は海里と結婚式を上げるなら、マーメイドスイミングの本場ハワイか、海の見える式場でやりたいと希望している。水族館の経営が黒字になったばかりの今仕事を休んで、水族館の経営を再び傾かせることになるなら、結婚式はもっとあとにするべきだ。

 結婚式はいつでもできるが、一度経営が傾いた水族館を立て直すには、長い時間が掛かる。

 その痛みと苦しみを知っている真央は、わざと無理難題の条件を海里に告げて、結婚式を延期していた。


 13年待てたのだから、1年や2年くらい誤差の範疇だ。

 真央がそう考えていたとしても、海里がそう思っているとは限らない。

 だいぶ精神面は持ち直したが、自殺を試みられては堪らないと、真央はある提案をすることにした。



「海里はこのままずっと水族館で、寝泊まりするの?」

「そうだな……。ずっと、怖かった。アパートを借りて住み、家で寝ているとき。水族館が勝手に取り壊されていたりしたらと思うと……。恐ろしくて仕方なかったんだ」

「……うん。そうだよね……」

「この水族館は、俺の一部だ。特に不自由をしているわけでもないから、ここで寝泊まりを続けるつもりだよ」

「だったら、私もここで暮らしてもいいかなぁ?」

「ここで暮らすの?」


 海里は正気を疑うような真央の発言に困惑していた。

 すでに水族館の経営権は海里の元へ戻ってきており、海里が24時間365日水族館で寝泊まりしなくたって、水族館が取り壊されることはないからだ。

 真央と婚姻生活を初めるのならば、どこかに家を借りるか、水族館の近くに家を買おうとしていた海里は、真央の申し出に驚きを隠し切れない。

 最低限生活するのに必要な設備は整えてあるが、男女が同棲するのに適した場所であるかと聞かれたら、首を傾げるような場所だったからだ。


「だめ……?」

「……だめじゃないよ。不便になると思うけど……」

「私は海里がいれば、それでいいよ!」


 潤んだ瞳で見つめられた海里は、真央のお願いを断ることができずに了承した。

 
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