水槽の人魚は、13年越しの愛に溺れる
ドヤ顔で上半身を起こし、うつ伏せの状態でフィッシュテイルを動かしてから気づいたが、モノフィンを取ってしまった後だった。グラビアアイドルがよくやる胸を強調するポーズをした所で、人魚らしさはあまり感じられない。
「水槽の前、お客さんどのくらい入るかなぁ」
「俺が寝起きしている場所だけなら680席。ガラス一枚挟んだバルコニー席を含むなら1800席だ」
「わぁ、すごーい。一回で?」
「ああ。水槽の前だけを完売したら1回68万。夏の間休みなく1日3回公演、1000円のチケット制にした場合、億単位の利益が出る計算だ」
「フルキャパで埋めたら?」
「3億」
「すごーい。夢がある話だね」
「水族館の維持費は恐ろしく高い。電気代だけで年間1億だ。人件費、飼育代、光熱費代を含めると、夏の間フルキャパで埋めた所で、やや黒字か、今まで積もりに積もった借金の補填に充てられる」
「借金?どのくらいあるの?」
「……100億」
事情は詮索するなと告げながら、ちゃっかり事情を説明してくれる辺り、海里の優しさを垣間見える。真央は嬉しかった。
あまり計算が得意でない真央がまごつくと、ぽんぽん具体的な数字が出てくる辺り、ずっと借金をどうしようか悩んでいたのだろう。真央はできる限り明るく努めようとしていたが、内心胸が張り裂けそうだった。
「うーん、じゃあ、680席を1日3回公演で365日運営し続けたら?」
「ざっと計算して7億程度だな」
「じゃあ、5億借金返済したとして……。完済までは20年?」
「……水族館の借金は気にする必要がない。すでに契約を結んでいる」
「契約って、なに?闇金からお金借りて自転車操業とか、言わないよね」
(私が絶対ここに戻ってくるから、館長になってと言ったせいだ)
川俣に、真央の知る海里はもういないと言われたことがずっと気がかりだった。この件を示していたのだろう。