水槽の人魚は、13年越しの愛に溺れる
 海里は恐らく借金返済の為に、本当はしたくないことをしようとしているから、抜け殻のようにずっと水槽だけを見つめていたのだろう。



 両親が経営していた水族館のあとを継いだら、100億の借金があった。

 真央が海里の立場なら、逃げ出したいほどにつらく悲しい状況だ。

 真央は、自分が海里にできることは何でもしようと決めた。



「言えないんだ。わざわざガラス一枚隔てて客席を作ったってことは、私が戻ってくるの。待っていてくれたってことでしょ?やろうよ。12年、離れてた分だけ。私が、頑張って働くよ。借金返済してみせるから」

「真央」

「そうだ。入園料もあるよね!マーメイドスイミングを見に来てくれる人は、入園料も支払うから……。1500円を680席分、それを3回で、365日……10億?」

「そうだな」

「チケットと入園料合せて17億。2億差し引いて……水槽の前だけでも、365日休まず5年頑張れば返済できる額だよ!すごいすごい!」



 真央はキラキラと瞳を輝かせて捕らぬ狸の皮算用をしている。

 夢を見ている真央と、そんなにうまくいくわけがないと諦めている海里の間には、見えない壁が存在していた。



「フルキャパを1日3回公演。一席1000円で販売して365日運用した場合、50億近い収入が期待できる。毎日完売できれば2年で完済も夢ではないが、毎日1800席は現実的ではない。マーメイド達はインストラクターとしての仕事があるだろう。夏の間だけならともかく、365日は無理だ」

「3人から5人のフォーメーションを組んで、シフト制にすれば無理なく就業できると思う。将来的には専属のパフォーマーとして専用の人材を雇えばいいわけだし。マーメイドスイミングの認定会は毎年行われているんだよ?私達のショーを見て、認定試験を受けて合格した人がショーに出たいって言ってくれるようになるまで、私達は頑張ればいいだけだよ!いける、いける!」



 真央は12年前、同級生からいじめられていて泣いていたとは思えないほど、根拠のない明るさを見せ、海里を後押しした。

 ずっと日本で暮らしていたら、真央はここまで根拠のない自信を抱くことなどできなかっただろう。
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