水槽の人魚は、13年越しの愛に溺れる
「マーメイドスイミング協会ってね、SNSのファン数が500万人いるんだよ。1人1回見に来てくれたら、それだけでいいの!こんな楽な仕事ないよ。やろう、海里!もう、悲しそうな顔なんてしなくていいんだよ!」



 真央は海里の両手を握って、ニコニコと笑顔を見せた。

 海里が置物のように無感情で、じっと水槽を見つめていたのは膨大な借金に絶望していると判断したのだ。

 海里がぼーっとしていた原因が、借金だけではないことに気づかずに。



「……テスト公演をする」

「うん!いいよ!いつがいい?私以外もここを使う許可をさえくれたら、3日で仕上げるよ!」

「1週間後の土曜日。まずは680席をすべて埋めろ」

「その後は?」

「うちの従業員はバルコニー席から観覧させる。客と従業員。双方を納得できるパフォーマンスができるのなら、来月から正式に導入するぞ」

「わかった!」



 こうしてはいられないと、真央はフィッシュテイルを素早く脱ぎ、水槽の水に濡れた状態で慌ただしく服を着て、黒髪ウィッグを被り直す。



「それじゃあ、明後日みんなを連れてリハーサルするから!」



 真央は笑顔で手を振り、その場を後にした。
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