水槽の人魚は、13年越しの愛に溺れる
 一人で考えているよりも、みんなで考えたほうがずっと早くアイディアが生み出される。真央は、日本で暮らしている時は自分の意志を伝えるのが苦手だったが、ハワイで暮らすようになってからは人と話すのが好きになった。



 マーメイドスイミング協会に所属するマーメイドとマーマン達は、日本人らしくないのだ。日本人特有の、誰か一人の強い意見に右へ倣えとばかりに付き従い、意見を求められてもだんまりを決め込むようなことがない。誰も彼もが積極的に意見を出し合い、それを頭ごなしに否定することなく受け入れる。

 意見を出しても絶対に否定されないとわかっているからこそ、全員が意見を出し合い、より良いものを作ろうと話し合いが続くのだ。一人でも頭ごなしに否定したり、叱りつける人間がいたら、これほど雰囲気のいい空間は生まれなかっただろう。



「あとはグッズで稼ぐか……」

「グッズ?」

「缶バッジとか、写真を印刷した透明な板を販売するんだよ」

「ブロマイドで荒稼ぎぎしよーぜ」

「アイドルかよ」

「いっそのことアイドルとして売り出せば?」

「地下アイドル始めました」

「わたし、アイドルはちょっと……」

「スイマーズ、とかでどう?」

「それはおいおい考えましょう!まずはプレショーを成功させてから!」



 アイドル文化に馴染みのない真央は首を傾げたが、妹の真里亜は遠慮がちに挙手をしながらアイドル売りは嫌だと拒否をした。



(アイドル文化に詳しいメンバーには、あとでどれほど荒稼ぎできるのかを聞こう)



 そう決めた真央が先導する元、プレショーに向けての準備が始まる。



「真央、ファン数が多い順に上から680人に水族館の住所と金額書いて招待状を送った」

「ありがとう!あとはほんとに来るかどうかだよね」

「SNSに告知しようぜ。プレミアムマーメイドスイミングショー開催、とかで!」

「多めに呼んどく?1000人とか」

「あー、満員が条件だけど、全員出席したら場所……困るよね……320人分の席が……」

「フルキャパ1800なら、別の席開放してもらえば?」

「それは相談しないと……」

「指定席のチケットシステム構築しなきゃ。ショー始まったら作ってる暇ないよ」

「あと決めることは?」

「3回公演で土日コーチングもするなら、明らかに人数が足りないのは……どうするの……?」



 現在、マーメイドスイミング協会では、マーメイドやマーマンを目指す人々の講習会を毎日のように行っている。
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