水槽の人魚は、13年越しの愛に溺れる
 いくら出演料が支払われるとしても、本業にインストラクター、そしてショーの3つを一生こなし続けてくれなどお願いできるわけがなかった。



「ファン数の多い人を会場に呼んで、チケット販売システムを構築、シフトを組んで、ショーの練習。物販の検討、ショーに出演できそうな無免許組の選定……。会場は抑えてあるとして、やること山積みだけど。全部こなせそう?」

「――海里の為だもん。やるしかないよ」



 真央は腕まくりをして、気合を入れた。100億の借金があると告げられた時は驚いてしまったが、みんなで力を合わせれば、100億程度の借金なんてチャラになるってことを、海里に知ってほしかった。

 100億返済までの道のりはまだ、始まったばかりだ。

(海里はひとりじゃないよって、今度は私が伝えるんだ)



 12年前、海里は髪色のことで迫害されていた真央を見捨てることなく、寄り添ってくれた。海里は今、一人で暗い部屋の奥底で蹲っている。

「オッケー!じゃあ、大体の方針は決まったから、練習始めよっか!」

 どうして人魚姿になれば、会話が成立するのか謎だが――12年前のように。人間の姿で、二人仲良く手を繋ぎ――あの大きな水槽の前に立って。肩を並べて巨大水槽に泳ぐ魚たちを眺めることを夢見た真央は、仲間たちに大きな声を張り上げたのだった。

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