水槽の人魚は、13年越しの愛に溺れる
 海里に3日で仕上げるといった手前、約束を違えることなど絶対にありえない。

 真央はマーメイドスイミング協会の会員と力を合わせて、急ピッチで準備を進めた。



「お姉ちゃん、手伝えなくてごめんね……」

「ショーに出られなくたって、細々したことを手伝ってくれるだけでもありがたいよ」

「うん……」



 妹の真里亜は、金髪は2人もいらないというメンバーの意見や仕事の都合により、早い段階で不参加が決定している。その代わり、チケットの手配やマーメイドの卵たちに声を掛ける細々とした事務作業を任せきりにしているので、真央としては助かっていた。

 妹がいなかったら、これほど手際よく準備は進まなかっただろう。



「わたし、お姉ちゃんの役に立てた……?」

「当たり前だよ!いつもありがとう、真里亜」

「どう、いたしまして……」



 妹はおっとりとしていて、人間に対する苦手意識がどうしても抜けないらしい。早い段階で自分の殻を破り明るい性格になった真央も、一歩間違えれば妹のように物静かな女になっていた。



(海里は、真里亜みたいに落ち着いた大人の女性が好きなのかなぁ……?)



 人間の真央には興味を示さないが、人魚の真央には興味を示すあたり、口うるさい真央は嫌われている可能性がある。

 真央はプレショーが終わったら、落ち着いた頃に一言も話さず海里の隣にいたら、どんな反応をするのか試そうと決意した。

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