水槽の人魚は、13年越しの愛に溺れる

プレビュー公演は大盛況

「みなさーん!押さないでください!先頭から順にご案内します!席は確保されていますので!スムーズな入場にご協力をお願い致します!」


 プレビューショー当日。

 会場には800人近い観客が押し寄せ巨大水槽の前で始まるのを今か今かと待ち望んでいた。


 当初、巨大水槽前への入場列は館内に作成する予定だったが、予定よりも多くの人が集まってしまったため入りきれず、外に待機列を作ることになってしまったのだ。

 列の整列に人員を避けないと水族館のスタッフに告げられ、本番15分前までを条件に、急遽出演者が交代で列の面倒を見ることになった。


「列、これから動かします」

「あ、はい……」


 ショーが始まるまでは、騒ぎにならないように真央は黒髪のウィッグで金髪を隠している。

 真央に列が動くと伝えに来た女性は、真央が12年ぶりに里海水族館に顔を出し、海里に合わせてくれと詰め寄った結果、川俣へ取り次いでくれた案内係の女性だ。

 彼女は能面のような無表情で真央にそれだけを伝えると、仲間たちに同じことを伝える為に足早に去っていく。


(なんか……不満そう、だった……?)


 これほど人が集まると思っていなかったのか、本来の仕事以外を任される羽目になってイライラしているのか。

 胸元のネームプレートに紫京院と書かれていることを確認した真央は、暇を見て理由を聞いてみようと考えながら、列に向かって叫んだ。


「これから列が動きます!皆さん、押さずにゆっくりとお進みくださいねー!」


 地下の巨大水槽に向かい、観客たちがゆっくりと列を崩すことなく進んでいく。真央は外にはみ出ていた列が捌けたことを確認し、仲間たちと共にショーの準備へ向かった。


「慣れていないだろうし、無理はしないこと!お客さんの前で溺死するくらいなら、無理に振り付け通りの動きをしなくていいからね!楽しんで、最後まで無事にショーを終わらせましょう!」

『ご来場の皆様にお知らせいたします。ショー中は立ち上がらず、座ったままでご鑑賞ください。また、撮影はご遠慮頂いております。ショー終了後、数分間の撮影時間を設けます。どうぞ、最後までごゆっくりとお楽しみください』


 円陣を組んで気合い入れをしていれば、来場者に向けて館内アナウンスを行う海里の声が聞こえた。
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