水槽の人魚は、13年越しの愛に溺れる
借金返済のためには、いかがわしいショーだのなんだの言われようとも。客の興味を引き、継続して見に来て貰うことが最優先事項だ。
働いている人々や、近隣住民の意見などどうでもいい。本来はどうでも良くないけれど切り捨ててしまった人の声は、借金返済をしてから聞けばいいだけの話だろう。
「いかがわしいショーを公演したせいで、常連さんにそっぽを向かれてしまうかもと心配するのは、当然だと思う。でもね。常連さんを12年間大事にしてきたから、今があるんだよ。里海の経営が安定してきたら、いなくなった常連さん達だって…戻ってきてくれるよ」
「人間は本来、変化を好みません。新たな試みは赤字が膨らむだけですから、控えるべきかと」
「あなたは、海里に一生借金を抱えて生きて行けばいいと思っているの!?」
「安定した100億の借金か、借金を返済しようとして膨れ上がった数百億の借金なら。後者より前者の方がマシでしょう」
「そんなの、酷い……」
海里の胸元には抱きしめられた真央は、今にも泣き出してしまいそうな顔をして、紫京院から視線を反らした。
精神面の幼い所が、露出したような形だ。
仲間外れにされて泣いていた幼少期のような姿を見た海里は、真央を抱きしめる手に力を込める。
「真央を泣かせるな」
「私は海里さんの為を思って、アドバイスしているだけです。彼女が勝手に涙を流しただけでしょう。自分の思い通りにならないと泣き叫ぶのは、精神的に未熟な証拠ですわ」
「それが真央の魅力だ。改善する必要はない」
「精神面の未熟なお子様に、借金が返済できるとは到底思えません。あたしは警告をしました。あなた達が手を取り合って借金返済を目標にしても、その願いが叶うことはないでしょう」
「俺たちは、その予言を覆して見せる」
「愛の力で、借金は帳消しにはなりませんよ」
「それがどうした。愛は時に、世界を変える力となる。俺は真央を愛している。この愛は──誰にも邪魔などさせない」
海里は真央から身体を離すと、真央の手をしっかりと握り、来た道を足早に戻っていく。
海里に引っ張られてその場を後にする真央に、マーメイドスイミング協会の仲間たちも慌てて真央の背中を追いかけた。
「……ふざけるな……」
真央の手をしっかりと握る海里は、抑えきれない怒りを滲ませた低く唸る声を出し、ブツブツと歩きながら壊れた人形のように、真央に愛を告げる。
「俺は真央を愛している。この愛は、誰にも邪魔させない。あの女にも、あいつにも……」
海里の胸に秘めていた気持ちを耳にした真央は、海里が自分に向ける愛が、12年間会わないうちに──狂ったものへ変化していたことに、気付かされるのだった。
働いている人々や、近隣住民の意見などどうでもいい。本来はどうでも良くないけれど切り捨ててしまった人の声は、借金返済をしてから聞けばいいだけの話だろう。
「いかがわしいショーを公演したせいで、常連さんにそっぽを向かれてしまうかもと心配するのは、当然だと思う。でもね。常連さんを12年間大事にしてきたから、今があるんだよ。里海の経営が安定してきたら、いなくなった常連さん達だって…戻ってきてくれるよ」
「人間は本来、変化を好みません。新たな試みは赤字が膨らむだけですから、控えるべきかと」
「あなたは、海里に一生借金を抱えて生きて行けばいいと思っているの!?」
「安定した100億の借金か、借金を返済しようとして膨れ上がった数百億の借金なら。後者より前者の方がマシでしょう」
「そんなの、酷い……」
海里の胸元には抱きしめられた真央は、今にも泣き出してしまいそうな顔をして、紫京院から視線を反らした。
精神面の幼い所が、露出したような形だ。
仲間外れにされて泣いていた幼少期のような姿を見た海里は、真央を抱きしめる手に力を込める。
「真央を泣かせるな」
「私は海里さんの為を思って、アドバイスしているだけです。彼女が勝手に涙を流しただけでしょう。自分の思い通りにならないと泣き叫ぶのは、精神的に未熟な証拠ですわ」
「それが真央の魅力だ。改善する必要はない」
「精神面の未熟なお子様に、借金が返済できるとは到底思えません。あたしは警告をしました。あなた達が手を取り合って借金返済を目標にしても、その願いが叶うことはないでしょう」
「俺たちは、その予言を覆して見せる」
「愛の力で、借金は帳消しにはなりませんよ」
「それがどうした。愛は時に、世界を変える力となる。俺は真央を愛している。この愛は──誰にも邪魔などさせない」
海里は真央から身体を離すと、真央の手をしっかりと握り、来た道を足早に戻っていく。
海里に引っ張られてその場を後にする真央に、マーメイドスイミング協会の仲間たちも慌てて真央の背中を追いかけた。
「……ふざけるな……」
真央の手をしっかりと握る海里は、抑えきれない怒りを滲ませた低く唸る声を出し、ブツブツと歩きながら壊れた人形のように、真央に愛を告げる。
「俺は真央を愛している。この愛は、誰にも邪魔させない。あの女にも、あいつにも……」
海里の胸に秘めていた気持ちを耳にした真央は、海里が自分に向ける愛が、12年間会わないうちに──狂ったものへ変化していたことに、気付かされるのだった。