水槽の人魚は、13年越しの愛に溺れる
 真央がどれほど手を伸ばしても──見えない壁に阻まれ、真央に対する愛を否定していたはずだ。

(海里はどうして、突然素直になったんだろう……?)

 海里は突然見えない壁を消滅させたかのように、真央へ気持ちを吐露している。

 12年前のように、甘酸っぱくて、優しい愛ではないけれど──どんな愛を向けられたとしても、愛していないと否定されるよりはずっといい。

 真央は笑顔で、海里に向けて愛を返した。

「私も海里のこと、愛しているよ」

「……真央?」

「真央だよ、海里」



 海里は真央から紡がれた愛の言葉によって、正気を取り戻したらしい。 

 真央をぼんやりと見つめていた海里は、複数の視線を感じたのだろう。

 見慣れない顔に囲まれていることに気づき、仲間たちへ会釈していた。



「やべぇ……これが人魚マジック……」

「他に女がいなければ、微笑ましいバカップルだと、温かい目で見れるけどね……」

「あれって、浮気なんですか……?」

「アレを浮気カウントは、厳しすぎるだろ……」



 仲間たちは海里の変わりようについていけないらしく、ひそひそとあらぬ疑いを掛けては、困惑している。

(どうして海里が、私に愛してるって口にしてくれたか、私もわからないからなぁ……)

 真央は海里を庇おうとしたが、真央だって海里の変化が何をきっかけに起きたのかをよくわかっていないのだ。

 どう庇えばいいのかわからず、苦笑いしかできない真央は、フィッシュテイルの中に足を入れたまま、海里へ話しかけた。



「海里。さっきのこと、覚えてる?」

「……ああ」

「あの人……ええと、紫京院さん?って……何者……?」

 真央はマーメイドスイミング協会の仲間が気になっていることを、海里へ聞くことにしたようだ。

 真央に問い掛けれられた海里は露骨に顔を顰めながら、低い声で唸る。

「真央には関係ない」

「か、関係あるよね…?」

 真央は不安になって、仲間たちを見渡した。マーメイドスイミング協会の仲間たちは全員頷き、海里へ厳しい言葉を投げ掛ける。
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