水槽の人魚は、13年越しの愛に溺れる
(海里の気持ち、ちゃんと伝えなきゃ)

 そう決意した真央は、ゆっくりと唇を動かした。


「違うよ、海里。迷惑なんかじゃない。海里が私の帰る場所を守ってくれたから、今の私がいるの」

「俺は耐えられなかった。逃げたんだ。借金を抱えた俺は、真央に合わせる顔がない。真央を幸せにできないと現実逃避して──夢の世界に逃げ込んだ」


 海里の夢は、水槽の中で泳ぐ人魚になった真央を夢想することだ。

 愛しい人魚は、この世には存在しない。

 真央は人魚の格好をして水槽の中を泳ぐことはあっても、本物の人魚にはなれないからだ。



「今も、何が現実で何が夢なのか。自分でもよくわからない。真央が消えてしまうような気もするし、自分が情けない……」

「海里、大丈夫だよ。海里は今まで一人で十分、頑張ったと思う。これからは私に任せて。二人で一緒に、乗り越えていこうね」



 真央がぎゅっと海里の両手を強く握れば、海里は力なく真央の手を握り返した。

 真央の手を叩いて拒絶した海里が、真央の手を握り返している。それは二人にとって、大きな進歩だ。

 真央の言葉には頷かなくとも──これからゆっくりと、一歩ずつ踏みしめて歩けばいい。


「えーっと、つまり……真央のことがずっと好きだけど、借金を返済する目処が立たず、現実から目を背けていただけで……ちゃんと真央のことは、好きだってこと?」

「なんだよ、それ。俺たちが心配するような関係じゃなくね?」

「いや、だったらさぁ……」

「真央の為を思うなら、借金はさっさとどうにかするべきだったでしょ。意味わかんない」



 仲間たちは、海里の口から借金をほったらかして現実逃避をしていたと言う言葉に引っかかりを感じているらしい。

 借金を抱えている限り、海里と結婚しても真央が幸せな生活を営めるわけはないので、自分たちが親だったら真央を海里の元へ嫁にやることなどできないと考えているのだろう。

 海里には批難が集中している。

 海里は昔の真央と同じように、メンタル面にやや不安があった。

 気になったことを根掘り葉掘り聞きだしたら、海里がストレスを感じて死んだ目になってしまうのではないかと──不安で仕方なかった真央は、そわそわと仲間達に目線で訴えかける。
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