水槽の人魚は、13年越しの愛に溺れる
(大変だ。海里がまたストレスで、吐きそうな顔をしてる。正気に戻さなくちゃ!)

 フィッシュテイルをピチピチと飛び跳ねるように動かし、真央は海里を正気に戻そうと必死になって声を上げる。



「大丈夫だよ!みんなにどう思われようとも、私が海里を嫌いになることも、他の人を好きになることもないから!」

「真央──」

「はい。わかった、カップルの惚気はもう聞き飽きたから!ここからは、里海水族館の臨時パフォーマーとして、仕事の話がしたいのだけど」

「ああ。構わない」

「これは私達の仲間が作った資料だけど──」



 仲間たちが事前に作成したA4の分厚い資料を眺めた海里は、館長らしく仕事の話を始めた。

 真央は計算が苦手なので、聞いているだけでも眠くなってくるが、1年でどうやって借金を返すか、目標粗利100億達成までの概算見積もりを前に熱い議論を繰り広げている。

 真央は海里の胸に寄り掛かりながら、腰回りを浮かせて意味もなく動かした。



「なんつーか、真央の腰つきってエロいよな」

「んー、そうかな?普通だよ?」

「真央」



 暇を持て余したマーマンと二人で話していれば、海里が真央の名を呼んだ。真央が振り返れば、彼女を横抱きにした海里は、近くに放置されていた荷物を回収して立ち上がる。



「返済までのプランに相違はない。なにか俺に許可取りが必要なことがあれば、真央を通してくれ。最大限の要望は叶えよう。真央を借りるぞ」

「嫉妬に狂ってお楽しみか?」

「そうだ」

「うぇっ!?」

「ごゆっくり~」



 マーマンと真央の関係は海里が誤解するような関係ではないのだが――海里は仲間たちに一言断ると、上層階に向かうエレベーターに乗り、移動し始めた。
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