水槽の人魚は、13年越しの愛に溺れる
海の底まで、二人で一緒に
「ねぇ、海里。このエレベーター……」
「俺の寝室に繋がっている」
「し、寝室!?」
あわあわと海里の腕に抱かれた真央は、慌てて腕から抜け出ようとした。海里は真央を逃さないように強く抱きしめると、エレベーターに乗り込む。
エレベーターのドアが閉まり、ゆっくりと上昇する時間すら待ちきれないのか、海里は真央の耳元で囁いた。
「やっと、二人きりになれた……」
海里は真央と二人きりになれるタイミングを、窺っていたらしい。
熱を帯びた海里の声を聞いた真央は、顔を赤くしながらエレベーターが目的の場所へ到着するのを待っている。
「真央は12年も会わないうちに……たくさんの人から、愛されるようになったんだな……」
「海里……?」
「真央は、俺だけの人魚なのに……」
エレベーターが音を鳴らし、目的の階へ到着したことを告げているのに、海里は低い声で不満を口にした。
真央は大好きな海里が不満そうにしていると知り、慌てて海里の機嫌を直そうと口を開く。
「私は、海里だけの人魚だよ……?」
「真央の言葉は、信頼できない」
「海里のことが好きな気持ちも、信頼できないの……?」
「……真央は俺に、館長になれと約束したくせに……人魚になって姿を見せるまで、12年も掛かった……。愛想が尽きても、おかしくない年月だ。干支が一周している」
今日の海里は饒舌だ。
真央は大好きな声をたくさん聞けて喜ぶ一方で、昔のような優しい口調ではないことに引っ掛かりを感じている。
「……遅くなって、ごめんね……」
「もっと早くに、真央を抱き締めたかった」
「うん」
「父と母が事故で亡くなったとき、真央がそばにいてくれたら……俺は……」
「ごめんね、海里……」
海里の両親には、真央も面識がある。真央を実の娘みたいに接し、優しく包み込んでくれた海里の両親は、この世にはいない。
真央は思い出の中で海里を気にするのではなく、24時間365日里海水族館のHPにへばりつき、異変がないかを確かめるべきだったのだ。
真央がそうして里海水族館の様子を遠くから見守っていれば、もっと早くに再会が済んでいた。
真央がどれほど謝罪を繰り返しても、海里の両親は戻ってこないし、借金が完済できるわけでもない。
真央と海里は過去を振り返るのではなく、前を向いて歩くべきなのだ。