水槽の人魚は、13年越しの愛に溺れる
 一生、外部から隔たれた安全なエレベーターの中で、抱き合っているわけにはいかないだろう。


「ねぇ、海里。エレベーター、着いたよ……?」

「12年待った」

「うん……」

「真央は俺に、大人しく待ち続けた褒美を与えるべきだ」

「……ご褒美……?」

「俺はいつまで、待てばいい」

「えっと……」

 真央は何の話だかわからず、苦笑いを浮かべながら視線をさ迷わせて、気づく。海里の手が、真央の両足を隠すフィッシュテイルに触れていることを。

「……海里は……人魚より、人間がいいの……?」

「俺は、真央を愛している」

 真央の問い掛けと、海里の答えは噛み合わない。

 フィッシュテイルと腰の境目をなぞった海里は、スルスルと指を進めてフィッシュテイルを脱がそうとしたようだが、立ったままでは脱がせ辛いと気づいたのだろう。

 真央に促されやっとのことでエレベーターを降りた海里は、慣れた手付きで寝室として利用している部屋のドアを開けると、抱き上げていた真央をベッドへ放り投げた。

「ひゃあ……!?」

 真央はフィッシュテイルの中に両足を入れたままの状態で投げ出され、背中をベッドに打ち付ける。
 ぼふりと気が抜けたような音と共にベッドの上で腰を動かしては、ピチピチとフィッシュテイルを動かした。

「真央。逃げるな」

「海里、でも……」

「脱がせたい」

「へ…!?」

「人魚が人間に戻る姿を、見たいんだ」

 いかがわしい意味だと勘違いした真央は素っ頓狂な声を上げたが、そうした意味がないと知った真央は、ベッドに上がり覆い被さる海里をじっと見つめる。
 海里を物欲しそうな瞳で見つめる真央は、期待に満ちていた。

「海里……この格好じゃ……脱がせ辛いよ……?」

 ベッドに押し倒されている真央の腰から、両足を覆い隠すフィッシュテイルを脱がそうとするのは簡単なことではない。前傾姿勢のまま、両膝で自身の身体を支えなければならないからだ。

 フィッシュテイルを脱がせるには、両手で同時に下へ布を引っ張る必要があった。
 海里が覆い被さった状態で脱がせるつもりなら、海里も真央の上へ寝そべり、身体を密着させた状態でないと難しいのではないだろうか。

「一緒に寝転がって……覆い被さっても、いいのか」

「いいよ」

 真央は海里の問いかけに、即答した。
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