水槽の人魚は、13年越しの愛に溺れる
 売り場の配置も素晴らしいのだが、どうやら最愛は派手な見かけによらずイラストが上手らしい。



「最愛ちゃん、ポップ作りとか得意だったりする?」

「まーね!図画工作と美術はオール5だったし!ポップ作んの?てか、作っていいの?」

「駄目って言われた?」

「あー。運営会社が変わる前までは、手書きで色々やってたんだけど……派手なのはやめろ、シンプルにしろ、経費削減だーってうるさいのなんのって」

「わかった。聞いてみるね」

「運営会社に?無理っしょ。ド新人の言う事聞いてくれるようなオッサンじゃないよ?あたしも駄目だったし」

「あー、運営会社はよくわかんないけど。ほら、水族館の偉い人は、館長だから」

「運営会社よりよっぽどだめなやつじゃん!」



 どうやら、従業員には海里の悪評が広まっているらしい。詳しい話を最愛に聞いた真央は、苦笑いするしかなかった。



「海里って引きこもり館長って呼ばれているの?」

『……引きこもり……』



 海里と真央が愛を確かめ合ってから。

 真央の声だけで正気を取り戻すようになった海里は、面と向かって顔を合わせるよりも電話で話をすることが多くなった。

 同じ館内に婚約者と浮気相手がいる状態で、頻繁に浮気相手である真央と会えば、責められるのは真央だ。

 マーメイドスイミング協会の仲間たちからの批判を受けて、少なくともショーが始まるまでは顔を合わせないようにしようと決めた。



「あ、ごめんね。海里。実は聞きたいことがあって」

『いや……事実だから仕方ない……。どうした。トラブルか。川俣の娘と衝突……』

「最愛ちゃんとは仲良くやれそうだよ。そうじゃなくて……。売店の売り場、様変わりさせてもいいかな?」

『好きにしろ』

「ありがとう!絶対売上アップさせるから、期待しててね!」



 真央は笑顔で通話を終えると、最愛に指示を出す。

 基本は最愛の理想とした指示書と同じ配置で。ただ、メインとなるぬいぐるみは、真央のチョイスで亀になった。



< 54 / 148 >

この作品をシェア

pagetop