水槽の人魚は、13年越しの愛に溺れる
「ぬいぐるみって、身体の大きさとか目の付き方で、個体差があるから……全く同じってわけじゃないんだよ。ここに陳列されている子たちはみんな仲間で、家族だけど。新しい家族に出会うのを心待ちにしている設定」



 真央は最愛に、ぬいぐるみをいかにして売り込むかを説明し始めた。

 亀のぬいぐるみたちは、真央の手によって三角形のピラミッド型に積み上げられていく。

 甲羅の上に足を乗せ、トランプタワーのように積みあがっていく亀たちは、種族こそ同じだが、個体差があった。



「お客さんが手に取ったぬいぐるみが、運命の子なの。気に入った子を選んで、お迎えしてもらう。そういうシステムですよって先に説明してあげれば――」



 お気に入りの子を見つけてね。



 丸っこい字でA4の紙にデカデカト書き込んだ真央は、トランプタワーならぬ亀タワーを完成させて、ご満悦な様子で笑顔を浮かべた。

 売り場の大改造計画に乗り気な最愛も、次々に売り場を改革していく。



「愛着が生まれるし、ペットを飼うような感覚で思い出にぬいぐるみを買ってくれる。ぬいぐるみ用の洋服とか作って、おしゃれさせるのもいいかも」

「デコっていいなら、あたしやりたい!」

「うん。一匹、ディスプレイ用に買い取ろうかな。その子に服着せて、営業すれば……お人形遊びが好きな子に刺さるかも」

「えー、原っちマジヤバじゃん!初日から大胆に改革するし、あの引きこもり館長と連絡取り合う仲だし。どういう関係?」

「昔、この水族館でお世話になったの。最愛ちゃんのお父さんとも、仲良くさせて貰ってたよ」

「親父と?ふーん……」



 最愛は海里との仲に深くツッコミを入れることなくスルーして、作業を再開する。

 売り物の場所を入れ替えつつ時折やってくる観光客の対応をしながら、これはやりがいがあるなと気合を入れた。「売店でかわいい海の仲間たちが、皆さんのお迎えを待ってまーす。運命のお相手、見つけませんかー?」

「わぁ!イルカさん!お洋服着てる!かわいいー!」



 売り場の配置を変更し終えた真央は、最愛にレジを任せ、ぬいぐるみを両手いっぱいに抱えて館内を練り歩いていた。

 早速小さな子どもに指差しされ、両手いっぱいに抱え込んだぬいぐるみの中からパペットを取り出すと、手を曲げて身体を振る。
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