水槽の人魚は、13年越しの愛に溺れる
 それからは、飛ぶようにグッズが売れていく。特に混雑が酷かったのは、ショーの終了後だ。

 レジ2台では回しきれず、長蛇の列が形成される。人も足りないし、改善の余地がありそうだ。



 真里亜の公演を見たかったが、そんな暇はとてもない。

 落ち着いたら帰るといいながら結局閉館まで居た真央は、最愛に心配されながらも、遅くまで在庫確認をしていた。



(SNSに在庫状況、アップロードしなきゃ……)



 眠い目を擦りながらも数を数え終えた真央は、ダンボールから在庫を補充し、写真を撮影してSNSに投稿する。

 現在の時刻は20時26分。閉館時間はとっくに過ぎている。ファンが心配する書き込みを見て初めて、この時間にSNSを投稿したらどうなるか気づいた真央は、疲れ切っていた。



「……真央?」



 休みなく朝から晩まで働き詰めであれば、誰だって疲弊する。これからこの生活を365日続けなければならないのだ。たった3日で音を上げてどうする。

 真央が頬を叩けば、巨大水槽の前か滅多に動くはずのない海里が、売店に顔を出した。



「あれ?海里……?ここ、売店だよ……?」

「知っている」

「水槽の前から移動したくないんじゃ……」

「あの区画にはセキュリティルームがある。監視カメラを確認したら、売店に明かりのようなものが見えた。不審者がいたら大変だろ。確認しに来たんだよ」

「あ、あはは……。不審者でーす」

「どうした。今日は休みだろ」

「あ、うん。そうだ。今日の公演、どうだった?」

「真央の代わりに、見覚えのない金髪が出演していた」

「金髪って……」

「興味ない。真央との違いを見せてやろうと、撮影はしておいたが。見るか」

「みたい!」



 海里は興味がないと口にしながら、義務感で動画を撮影していたらしい。

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