水槽の人魚は、13年越しの愛に溺れる
 席に着席せずに立ったまま撮影された動画は、最後列からどのように見えるのかがわかりやすく、改善点がよく見える。



「あの巨大水槽は、真央のものだ」

「うん」

「真央でなければ、水槽は輝かない」

「キラキラ?」

「何もいないのと同じだ……」



 海里はぼんやりと真里亜が水槽の中で泳ぐ映像を見つめているが、その瞳には光がない。

 真里亜だって十分すぎるくらいに美しいマーメイドだ。むしろ、勢いで押す真央とは違い、妹の真里亜は繊細で優雅な泳ぎを披露する。

 みんな違ってみんないい。それでいいじゃないかと、真央は海里の隣で映像を見つめながらぽつりと呟く。



「あのね、私には妹がいるの」

「妹……」

「そうだよ。妹は病弱で、入退院を繰り返してた。いつも私だけがこの水族館に連れてこられて、暇を潰していなさいって言われるの。海里がいなかったら私、妹のお見舞いが終わるまで、ずっと一人でお魚さんたちを眺めていることしかできなかった」

「俺が真央と出会えたのは、妹のお陰なのか」

「うん。私もハワイで暮らすようになって変わったけど、妹も元気になった。私と妹はタイプが違う。妹は控えめで大人しくて、時折羨ましいと感じることがあるの」

「……控えめで大人しい真央より、今の明るい真央が好きだ」

「本当?嬉しい。海里に好きだって言われたなら、ハワイで暮らして良かったなって思える。それで……」



 真央はいつ海里に打ち明けようか迷っていた話を、この日初めて打ち明けることにした。

 海里にとってはどうでもいいことかもしれないけれど、真央にとっては、重要なことだから。

 真央は静かな声で、声を潜めながら話を続けた。



「……真里亜はね、私の妹なの。私達はいつも比べられる。みんな私よりも真里亜を選ぶんだ。真里亜は可愛いし、あんまり自己主張しないから。海里が私を選んでくれて嬉しい。嬉しかったけど――真里亜の泳ぎには、真里亜しか表現できない魅力があるんだよ」

「…………褒めた方が、いいのか」

「無理に褒める必要はないよ。本当は、ちゃんと紹介したかったんだ。海里は私の旦那さんになる人ですって。でも、紫京院さんのこともあるし――」



 妹がいなければ、海里と出会うことはなかったと告げても。

 どうにも彼はぴんとこないらしい。ぼんやりと小さな画面を見つめ、興味などなさそうだ。
< 63 / 148 >

この作品をシェア

pagetop