水槽の人魚は、13年越しの愛に溺れる
「ねぇ、海里……。真央はここにいるよ……?海里が大好きで、愛してる真央は……ここに……」
海里が愛してやまない真央は、ここにいると何度叫んでも。海里の視線は水槽へ向けられたまま、意識がこちらへ戻ってくる様子は見られない。
「すぐ泣く女は面倒がられて、嫌われてしまいますよ」
「海里は私が泣いても、嫌ったりしない…!優しく抱きしめて、愛を囁いてくれるんだよ!」
「そうやって私へムキになるのは、大人の女性として褒められたことではありません。あなたはもっと、大人の落ち着きを身につけるべきですわ。あたしのように」
紫京院は胸の前で両腕を組むと、真央に諭した。真央に落ち着きがないのは事実である為、真央は紫京院のようになった自分を思い浮かべて首を傾げる。
(クールでセクシーな感じ……?)
セクシーな感じはマーメイドスイミングで再現できても、取っ付きにくくてクールな感じは難しいのではないだろうか。
真央が明るく元気な性格から、昔を思わせる地味で後ろ向きに近い性格になれば、海里は真央を好きになってくれないような気がする。
「あなたへ大人の女性として、立ち振る舞いを教えて差し上げる代わりに……。あたしの願いを叶えてください」
「紫京院さんの、お願い……?」
「あたしには、欲しいものがあるのです」
「海里は渡せないよ!?」
「ご安心くださいませ。あたしの人生に、海里さんは必要ありません」
海里が必要ないのなら、紫京院は何を欲しがっているのだろう。
真央が難しそうな表情をしながら紫京院の言葉を待てば、彼女は妖艶な笑みを浮かべて告げた。
「あたしには、愛する人が──」
「愛する、人?」
「真央」
真央の声によって夢から目覚めた海里は、真央が自身の胸元に抱き付きながら紫京院と、穏やかではない話をしていると知る。
「海里!」
海里が夢から目覚めたと知り、花が咲くような笑顔を見せた真央の顔は赤みを帯びている。海里はすぐさま額に手を当て熱を図ると、真央が熱を出していることに気づいた。
「体調が悪いなら、先に言え……!」
「海里……?」
身体が気だるいような感覚はあるものの、海里から怒鳴りつけられるほど、心配されるような状況ではない。そう認識していた真央は、今にも泣き出しそうなほどに表情を歪ませ心配してくる海里と見つめ合う。