水槽の人魚は、13年越しの愛に溺れる
「あら、残念。すっかり、二人の世界を作り上げていますのね。これでは、あたしの入る隙間がありません。困りました……」

「特殊性癖の異常者が……」

「うふふ。あたしは望みを叶える為でしたら、鬼や悪魔にも喜んで魂を売ると決めました。歪で歪んだ愛を受け止められるのは、あの人だけです。海里さんに、そう称される謂れなどありませんわ」



 紫京院は海里を、誰かに重ねているようだ。

 暗い瞳をしていた海里の奥底に、キラリと怪しい光が宿った。その光は、今にも消えてしまいそうなほどに仄暗く、ゆらりと揺れている。



(どうなっているの……?)



 ヘビとカエルが睨み合う現場に居合わせた人魚は、蛇の身体に抱きしめられるがまま、身動きすらも許されない状況下に置かれた。
 口を挟める状況ではないと知るや否や、日頃の疲れを癒やすために、うとうとと船を漕ぎはじめる。



(海里に抱きしめられると、心地いい……)



 海里と紫京院が言い争っているのに、蚊帳の外へ追い出されたから眠ろうとしているなど、随分余裕だ。

 真央は海里の暖かなぬくもりに包まれれ、すぅすぅと吐息を立てて眠り始めた。
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