水槽の人魚は、13年越しの愛に溺れる
この水族館の館長は川越海里という名の男性だ。まさか、名前の漢字が全く同じ別人だとでも言うのだろうか。
真央が真っ青な顔をしていることに気づいた川俣は、鼻で笑い飛ばしながら続きを紡いだ。
「死ぬよりも、もっとずっと酷いことになっている。あれから色々あって……。海里くんの心は壊れてしまった。真央ちゃんと顔を合わせた所で、お互いに傷つくだけだ。やめた方がいい」
「で、でも。おにーさんは、館長さんなんですよね!?私との約束、守ってくれたから、この水族館は……!」
12年前から、水族館の評判はあまりよくなかった。盛況なのは他県から観光にやってくる観光客が顔を出す土日だけで、平日は閑古鳥が鳴く。穏やかで、居心地のいい。静かな空間。真央が大好きな場所だった。
その場所が問題なく12年もの間存続し続けられたのは、海里が真央との約束を覚えていてくれたからだと主張しても、川俣は暗い表情で真央を諭すだけだ。
「……真央ちゃんの約束を守るために、海里くんが手放したものが大きすぎたんだよ」
「……おにーさん、どこにいますか?おにーさんに会わせてください!」
「後悔するよ」
「後悔することになっても、構いません!私はおにーさんとの約束があったから、今まで生きて来たの!おにーさんと会うまで、退館しませんから!」
真央が強い口調で川俣に告げれば、真央の性格をよく知っている彼は、12年前巨大水槽があった場所へと誘う。
(やっぱり……水槽が、ない……)
12年前に巨大水槽があった場所は、一部が従業員用の通路となっていた。どうやら完全に水槽を撤去したわけではないらしく、奥の方へゆっくりと進んでいけば、見覚えのある大きな空洞が見える。
「海里くんは、真央ちゃんの約束を守るために、この場所へ誰も立ち入れないようにした。驚いただろう。水槽がなくなっていて」
「あ、はい……。どこにもなかったので、驚きました……」
「あの水槽は、移設したんだ。元々水槽があった場所が出入り口になっている」
「え、じゃあ。水槽は?」
「奥の螺旋階段で地下に降りると、見えるはずだ」
本来であれば一般客の入れない従業員通路を先導して奥に誘った川俣は、水槽の上部を真央に見せてくれた。
真央が真っ青な顔をしていることに気づいた川俣は、鼻で笑い飛ばしながら続きを紡いだ。
「死ぬよりも、もっとずっと酷いことになっている。あれから色々あって……。海里くんの心は壊れてしまった。真央ちゃんと顔を合わせた所で、お互いに傷つくだけだ。やめた方がいい」
「で、でも。おにーさんは、館長さんなんですよね!?私との約束、守ってくれたから、この水族館は……!」
12年前から、水族館の評判はあまりよくなかった。盛況なのは他県から観光にやってくる観光客が顔を出す土日だけで、平日は閑古鳥が鳴く。穏やかで、居心地のいい。静かな空間。真央が大好きな場所だった。
その場所が問題なく12年もの間存続し続けられたのは、海里が真央との約束を覚えていてくれたからだと主張しても、川俣は暗い表情で真央を諭すだけだ。
「……真央ちゃんの約束を守るために、海里くんが手放したものが大きすぎたんだよ」
「……おにーさん、どこにいますか?おにーさんに会わせてください!」
「後悔するよ」
「後悔することになっても、構いません!私はおにーさんとの約束があったから、今まで生きて来たの!おにーさんと会うまで、退館しませんから!」
真央が強い口調で川俣に告げれば、真央の性格をよく知っている彼は、12年前巨大水槽があった場所へと誘う。
(やっぱり……水槽が、ない……)
12年前に巨大水槽があった場所は、一部が従業員用の通路となっていた。どうやら完全に水槽を撤去したわけではないらしく、奥の方へゆっくりと進んでいけば、見覚えのある大きな空洞が見える。
「海里くんは、真央ちゃんの約束を守るために、この場所へ誰も立ち入れないようにした。驚いただろう。水槽がなくなっていて」
「あ、はい……。どこにもなかったので、驚きました……」
「あの水槽は、移設したんだ。元々水槽があった場所が出入り口になっている」
「え、じゃあ。水槽は?」
「奥の螺旋階段で地下に降りると、見えるはずだ」
本来であれば一般客の入れない従業員通路を先導して奥に誘った川俣は、水槽の上部を真央に見せてくれた。