水槽の人魚は、13年越しの愛に溺れる
 6年前に事故で両親が亡くなってから、海里の人生は散々だ。

 当時20歳だった海里は里海水族館を存続させるため、手段を問わず手を尽くしてきたが、海里の手元には何も残らなかった。



 真央は12年前に別れたきり、手紙の一つもよこさない。信頼し合える仲間は、紫京院と悪魔の契約を交わした海里についていけないと里海を去った。

 海里の手元にあるのは、紫京院だけ。その紫京院ですらも心の奥底では、かつて海里が兄と慕っていた男を切望しているのだから、手に負えない。



 海里は真央が姿を見せるまで、ずっと一人だった。



 空っぽな海里を愛し、借金返済に奮闘する真央は、海里の光だ。絶対に失いたくない。何を犠牲にしたとしても。もう二度と、海里は──。



「かい、り……?」



 浅い眠りから目覚めた真央は、はっと目を見開いた。

 海里が涙を流していたからだ。真央は寝ぼけながらもゆっくりと涙を流す海里の頬に触れると、涙を拭い取った。



「大丈夫……。真央は、ここにいるよ……」

「真央……っ」



 海里は真央のぬくもりを確かめるように、強く抱きしめる。

 潰れてしまいそうなほど力強く抱きとめられた真央はぐえっとカエルが潰れるような声を出さないように気をつけながら、海里の背中に手を回して撫で付けた。

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