水槽の人魚は、13年越しの愛に溺れる
海里水族館の売店スタッフを兼任します。
仕事を休んだ真央は、翌日から今まで通りの生活を送る。
仕事に穴を開けてしまったことに責任を感じているのか、真央は無理をしなくなった。とは言っても、土曜と日曜、1日だけ休みを取るようになっただけだ。
2日休むのはプライドが許さなかった。真横であまり身体の丈夫ではない妹が、休みを返上して真央の代わりにショーへ出演してくれているのだから。
助けを求めた真央が、率先して2日も休むなどあり得ない。
世間はもうすぐクリスマス。
真央は入社当初あちらこちらにばらまいた私物のぬいぐるみ達を探し回っては、最愛の作ったサンタ服に着せ替える。
「紫京院さん!鮫くん、回収に来ましたよー!」
紫京院に渡した鮫のぬいぐるみは、受付カウンターの上に置かれていた。敵対している相手からのプレゼントなのに、彼女は鮫のぬいぐるみを可愛がってくれているようだ。
ぬいぐるみには、埃一つ付着していない。
「何か用ですか」
迷惑そうに聞いてきた彼女に、真央はぬいぐるみ専用のサンタ服を見せつけた。
「紫京院さん、鮫くんに自分で着せる?」
「いえ。遠慮しておきます」
「鮫くんのこと、可愛がってくれてありがとう!鮫くんも喜んでるよー。ありがとー!」
「子供騙しの腹話術は不要です。調子はどうですか」
「え、元気だよ……?」
「あれから一ヶ月経ちましたけれど。顔色が悪かったようなので……」
「心配してくれたの?ありがとう!私は今日も、元気いっぱいです!」
真央は元気よく、笑顔で紫京院へ手を振った。
彼女はその言葉で、満足したのだろう。深いため息を付くと、真央に告げる。
「馬鹿は風邪を引かないと言いますが……。そうですか。全快したなら、良かったです。あなたはいかがわしいショーのメイン。稼ぎ頭ですから……」
「私は稼ぎ頭として、マーメイドスイミングに誇りを持ってます!私が何日か休むことになったら、妹の真里亜に本業を休んで貰わないといけなくなるもん。どんなに具合が悪かったとしても、ショーに穴を開けたりしないので、安心してください!」
「……水槽の中で、溺死することがないといいのですけれど」
マーメイドスイミングショーの客席は、無料ではない。入園料とは別に有料で販売されており、ほぼすべての日程で完売している。土日はキャンセル待ちが出るほど大人気だ。