水槽の人魚は、13年越しの愛に溺れる
真里亜が社長の愛を受け入れたなら、全てが丸く収まる。
愛する人魚姫を理手籠めにしたいと思っている社長を拒絶するより、肩を持ってやる方が真央にもメリットがあるのだから仕方ない。
「経営者って面白いね。数百億の借金を肩代わりして、大好きな人が手に入るなら。ぽんとお金を出してくれる。社長さんの器になる人って、みんなそんな考えを持っているような人なのかな……?」
「お姉ちゃん……っ。危ない人だってわかっているなら、私を生贄に捧げようとするのはやめてよ……!」
「危ない人だなんて、思ってないよ?真里亜は社長と、お──」
「……お姉ちゃんっ。もうやめて……!」
真里亜は恥ずかしくて仕方ないのか、机の上に突っ伏した。
真里亜の無防備な背中を目掛けて両手を伸ばしたことに気づいた真央は、流石に真里亜が可哀想になり──笑顔で社長と海里が話し合えるようにサポートする。
「詳しい話は、海里と社長さんでどうぞ!」
真央から海里と二人で話をするように促された社長は、一瞬真里亜を自分のものにできずに寂しそうな表情を見せてから、真央を背中から抱きしめる海里の前へやってきた。
「はじめまして。俺の人魚姫を飼育している水族館の館長さん。俺はハワイの輸入雑貨を取り扱う専門店、アロハオハナルームの社長です。人魚姫のお姉さんから、話は聞いたよ。紫京院なんて、いい噂を聞かない所の傘下によく入ろうと思ったね?僕の人魚姫を、あの水槽へ閉じ込めるのではなく、大きな大海原で泳がせると約束してくれるのならば、僕は喜んで君に協力しよう」
「人魚姫……」
海里は真央を奪われなるものかと、キツく抱きしめる。海里は勘違いをしているのだ。海里が人魚姫と聞いて連想するのは、真央以外ありえない。
土日に真里亜が真央の代わりに中央で泳いでいることなど、すっかり頭から抜け落ちてしまっているようだ。
真央は慌てて首を上に向けると、海里の顔を見上げながら説明する。
「あっ、私じゃなくてね、真里亜のことだよ。社長さんは真里亜のことが大好きで、毎週土日にうちのショーを見に来てくれているんだって」
「こいつ、ショーがはじまってからずっと全通してっからな。マーメイドスイミング協会、応援会長だとかなんとか……」
「えっ!?か、会長さん……なんですか……!?」
「ああ、そうだよ。ファン会長のアカウントで、毎日楽しく文章のやり取りをしているのは僕だ。気づいていなかったのかい?」
「ひえぇえ……っ」
改めて妹を紹介すれば、社長はとんでもないことを口にした。
SNSで毎日真里亜を指名して会話をしていたファン会長が彼だと知った真里亜は、驚きで魂が出てしまっている。
一度机から顔を上げ、すぐに机の上に再び突っ伏し直した真里亜を見た社長は、真里亜を背中から抱きしめられた。その様子に、違和感はない。
(真里亜は、社長さんにお似合いだと思うけどなぁ……)
真央が妹に抱きつく社長の姿をじっと見つめていれば、真央を抱きしめていた海里は嫉妬したのだろうか。真央の目元を大きな手で覆い隠すと、社長に淡々と名前を名乗った。
「海里水族館館長、川越海里」
「よろしく、川越館長」
「よろしくお願いします。先程の申し出の件は、後日詳しいお話を窺えますか」
「今すぐでは、なくていいのかな」
「……経営のことは、あまり不特定多数に聞かせたくないので」
「おい、海里。てめぇ……っ。まだ俺らに隠し事してんじゃねぇだろうな……?」
「隠し事はしない。狐と狸の化かし合いは、不特定多数に見せるものでは……」
「そうだね。では、来週。同じ時間にチケットを取ってあるんだ。そこで話をしようじゃないか」
「わかりました」
社長と海里が後日話し合いの場を設けると聞いた真里亜の意識が戻ってきたようだ。
机からゆっくりと顔を上げた真里亜は、真央に助けを求めるような視線を向けてくる。
(諦めたらいいのになぁ)
真央は絶体絶命な妹の様子を見て、笑顔で地獄へ突き落とす。
「両親には、彼氏とお楽しみだって言っておくから!朝帰りでいいよ!」
「あっ、朝帰り!?しない、しないよ!ぜ、絶対しないから……!」
「さあ、行こうか。俺の人魚姫」
「いーやー!」
真里亜の甲高い悲鳴と共に、部外者の社長が真里亜を抱き抱えて会議室を出ていく。
里海水族館でイルカやペンギンのショーを復活させるべく集まったトレーナーたちは、去り行く二人の姿を見ては微笑ましい視線を向けて見送った。
愛する人魚姫を理手籠めにしたいと思っている社長を拒絶するより、肩を持ってやる方が真央にもメリットがあるのだから仕方ない。
「経営者って面白いね。数百億の借金を肩代わりして、大好きな人が手に入るなら。ぽんとお金を出してくれる。社長さんの器になる人って、みんなそんな考えを持っているような人なのかな……?」
「お姉ちゃん……っ。危ない人だってわかっているなら、私を生贄に捧げようとするのはやめてよ……!」
「危ない人だなんて、思ってないよ?真里亜は社長と、お──」
「……お姉ちゃんっ。もうやめて……!」
真里亜は恥ずかしくて仕方ないのか、机の上に突っ伏した。
真里亜の無防備な背中を目掛けて両手を伸ばしたことに気づいた真央は、流石に真里亜が可哀想になり──笑顔で社長と海里が話し合えるようにサポートする。
「詳しい話は、海里と社長さんでどうぞ!」
真央から海里と二人で話をするように促された社長は、一瞬真里亜を自分のものにできずに寂しそうな表情を見せてから、真央を背中から抱きしめる海里の前へやってきた。
「はじめまして。俺の人魚姫を飼育している水族館の館長さん。俺はハワイの輸入雑貨を取り扱う専門店、アロハオハナルームの社長です。人魚姫のお姉さんから、話は聞いたよ。紫京院なんて、いい噂を聞かない所の傘下によく入ろうと思ったね?僕の人魚姫を、あの水槽へ閉じ込めるのではなく、大きな大海原で泳がせると約束してくれるのならば、僕は喜んで君に協力しよう」
「人魚姫……」
海里は真央を奪われなるものかと、キツく抱きしめる。海里は勘違いをしているのだ。海里が人魚姫と聞いて連想するのは、真央以外ありえない。
土日に真里亜が真央の代わりに中央で泳いでいることなど、すっかり頭から抜け落ちてしまっているようだ。
真央は慌てて首を上に向けると、海里の顔を見上げながら説明する。
「あっ、私じゃなくてね、真里亜のことだよ。社長さんは真里亜のことが大好きで、毎週土日にうちのショーを見に来てくれているんだって」
「こいつ、ショーがはじまってからずっと全通してっからな。マーメイドスイミング協会、応援会長だとかなんとか……」
「えっ!?か、会長さん……なんですか……!?」
「ああ、そうだよ。ファン会長のアカウントで、毎日楽しく文章のやり取りをしているのは僕だ。気づいていなかったのかい?」
「ひえぇえ……っ」
改めて妹を紹介すれば、社長はとんでもないことを口にした。
SNSで毎日真里亜を指名して会話をしていたファン会長が彼だと知った真里亜は、驚きで魂が出てしまっている。
一度机から顔を上げ、すぐに机の上に再び突っ伏し直した真里亜を見た社長は、真里亜を背中から抱きしめられた。その様子に、違和感はない。
(真里亜は、社長さんにお似合いだと思うけどなぁ……)
真央が妹に抱きつく社長の姿をじっと見つめていれば、真央を抱きしめていた海里は嫉妬したのだろうか。真央の目元を大きな手で覆い隠すと、社長に淡々と名前を名乗った。
「海里水族館館長、川越海里」
「よろしく、川越館長」
「よろしくお願いします。先程の申し出の件は、後日詳しいお話を窺えますか」
「今すぐでは、なくていいのかな」
「……経営のことは、あまり不特定多数に聞かせたくないので」
「おい、海里。てめぇ……っ。まだ俺らに隠し事してんじゃねぇだろうな……?」
「隠し事はしない。狐と狸の化かし合いは、不特定多数に見せるものでは……」
「そうだね。では、来週。同じ時間にチケットを取ってあるんだ。そこで話をしようじゃないか」
「わかりました」
社長と海里が後日話し合いの場を設けると聞いた真里亜の意識が戻ってきたようだ。
机からゆっくりと顔を上げた真里亜は、真央に助けを求めるような視線を向けてくる。
(諦めたらいいのになぁ)
真央は絶体絶命な妹の様子を見て、笑顔で地獄へ突き落とす。
「両親には、彼氏とお楽しみだって言っておくから!朝帰りでいいよ!」
「あっ、朝帰り!?しない、しないよ!ぜ、絶対しないから……!」
「さあ、行こうか。俺の人魚姫」
「いーやー!」
真里亜の甲高い悲鳴と共に、部外者の社長が真里亜を抱き抱えて会議室を出ていく。
里海水族館でイルカやペンギンのショーを復活させるべく集まったトレーナーたちは、去り行く二人の姿を見ては微笑ましい視線を向けて見送った。