愛しい吐息 ~凛々しい婚約者は彼女を溺甘で支配的な愛にとろけさせる~
「雅は結婚式への憧れはないの?」
「ない。あなたと結婚できればそれで幸せだ」
 そう言って微笑し、意見を言ってくれない。
 決めることはほかにもたくさんある。
 どんな雰囲気の式にしたいか、余興はどうするか、二次会はどうするか、などなど。
 さすがにスピーチのことは雅も意見をくれて、彼女の会社のつきあいのある社長に頼むことになった。彼女自身が社長だし祖父が会長だから、上司がスピーチということはない。
 式場を決めるときも、一緒に見に行ったのに「好きなところでいいよ」とニコニコするばかりで、花純は不満が残る。好きにさたい、という善意はわかるのだが。
「急で悪いけど今夜はパーティーに行くことになった。父の名代だ。迎えに来るから君も準備しておいて」
「今日!?」
「都合悪いか?」
「あなたの誕生日。夜は一緒に過ごそうって……」
 あ、と声を出して雅は花純を見た。
「すまない、忘れていた」
 自分の誕生日なんて忘れるものだろうか。
「昨日の夜、29歳おめでとうって言ったばかりなのに」
「えっと、花純は27歳だよな」
「それ、なんのごまかしにもならないよ?」
 雅は両手を合わせて花純を拝んだ。
「ごめん、今度埋め合わせする。今度の11日。二人が出会った記念日、こっちは絶対になんとかする! 初デートに行った遊園地、また行くって約束しただろ?」
 出会ったのは12日だ。だけど、忙しい雅に休みを変更をさせるなんてできない。記念日を一緒に過ごしたいと思ってもらえるだけで幸せだ。
 雅が上目遣いで花純を見る。
 それだけでもう、仕方ないなあ、と花純は許してしまう。
 きっと雅はそれをわかっている。
 ずるい、と思いながらも、花純は雅のなすがままだ。
「わかった。絶対だからね」
「注文したケーキ、明日食べるのでもいいか? 早く帰るようにするから」
 2人で……というか、花純が写真を見せて、雅がいいよと言ったから決めた、雅の誕生日ケーキ。
「わかった」
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