愛しい吐息 ~凛々しい婚約者は彼女を溺甘で支配的な愛にとろけさせる~
「18時に迎えに来るから、綺麗に飾って待っていてくれ。足りなければ買い足していいから」
「もう充分よ」
「まだ足りない気がする。愛する運命のお姫様」
「買い過ぎよ」
「君のためなら、いくら使っても惜しくない」
 雅はすぐにそう言うから、花純は毎回照れてしまう。
 雅は時計を見て立ち上がった。
「時間だ。あとはよろしく」
 空になった皿をシンクにおく。エプロンをはぎとって洗濯機に放り込み、雅は出勤の準備をした。
 玄関まで見送りに行くと、振り返った雅は花純の頬に手を添えた。
「最近、変な詐欺が増えてるから気を付けて」
「うん」
「あなたは早とちりをするし、純粋だから騙されやすい。心配だ」
「あなたも気をつけて」
「大丈夫だ」
 ふふ、と雅は笑う。
「騙されない自信がある人のほうが危ないっていうよ?」
「はいはい」
 花純に軽くキスをして、雅はマンションを出て行った。
 花純は見送り、玄関のカギを締めた。

 花純が雅に出会ったのは、今から約一年前のことだ。
 そのとき、オメガの彼女は予期せぬヒートが起きて物陰に隠れていた。
 この世界には第1の性である男女に加えて第2の性別アルファ、ベータ、オメガがある。合計6種類の性別、ということになる。
 男女問わず、アルファは優秀。ベータは平凡。オメガは劣る、と一般的には言われている。
 ベータは人口の90パーセント。アルファとオメガはそれぞれ5パーセントずつ程度だ。
 アルファであれば女性でも妊娠させる能力を持ち、そのための生殖器もある。自身も妊娠が可能だ。オメガは男性でも妊娠できるし、男性としての能力もある。だから恋人や結婚は第1の性である男女には縛られない。とはいえ、男女で結婚することが圧倒的に多い。
 オメガはヒートと呼ばれる発情をする。それが起きると周囲にフェロモンが撒き散らされ、近隣のアルファは男でも女でも異常な興奮状態になってオメガを求めるという。
< 3 / 42 >

この作品をシェア

pagetop