愛しい吐息 ~凛々しい婚約者は彼女を溺甘で支配的な愛にとろけさせる~
 発情はオメガだけの特有のものだ。周期的で、たいていは3カ月に1度。発情すると本人には制御できない衝動が襲い、アルファをひきつけるフェロモンを分泌しながら異性との行為を求めるようになる。この場合の異性はアルファの男女がその対象だ。
 発情があるのはオメガだけだ。
 発情を抑える薬はあるが、発情の期間は家でおとなしく休んでいるのが一般的だ。
 このときの花純は、その周期からはずれていた。
 だから1人でショッピングに出たのだが。
 気づいた直後、すぐにビルの裏の植え込みの中に隠れ、アルファを探したい衝動と戦ってうずくまっていた。
 オメガの発情に、アルファの男女はひきずられる。オメガが発するフェロモンがアルファをひきつけ、アルファはオメガを欲する。そうして、同意なく行為が行われることがある。
 襲うように仕向けたオメガが悪い、と言われることがある。
 法的には、襲ったほうのアルファが罰せられることが多い。
 だが、そのせいでまたヘイトがオメガに向かってしまう。優秀なアルファが罪を問われて平均より劣るオメガが優遇されている、と誤解を受けて。
 襲われたらどうしよう、と震えていた。
 その彼女に声を掛けたのが雅だった。
「大丈夫か」
 聞こえた声は女性のもので、だから花純は油断して顔を向けた。
 目があった。
 瞬間、電流が全身を走ったかのようだった。全身が総毛立ち、全神経が彼女に向かう。
 髪をすべて後ろに撫でつけた、凛々しい女性だった。背が高く、胸は薄い。パンツスーツがよく似合っている。一重の目が涼し気だ。
 頭の中で何かが鳴り響く。
 彼女だ。
 根拠のない確信が鳴り響く。
「あなたは……」
 女性もまた、魅入られたように花純を見た。
 そのまま、唇を寄せる。
 花純は抵抗しなかった。
 するり、と舌が入って来る。
 乱暴に花純を蹂躙する。
 うっとりと花純は目を閉じた。全身がうずき、下半身が熱く潤む。
「一緒に来て」
 女性は花純とともにタクシーに乗り、ホテルに向かった。
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