竜のつがい
2.嫁選びの儀式
彼のつがいを選ぶ典礼が始まった。
氷蘭は渋々椅子にかけ、目の前に連れられてくる女児を吟味する。
はじめから気も進まず、不快感で満ちていた氷蘭の表情は、次々と少女が連れてこられるたびに、凍り付くような険しいものになっていった。
ここから選ばなければならないのか?
思うことは、それだけだった。
上位種族へ献上される捧げ物のように、美しい着物で着飾った少女たち。
見目麗しい者が選ばれているのだろう。
だが、竜人には到底及ばない。
氷蘭の心は、微塵も動かないのだ。
だが、それを続けて一ヶ月ほど経ち、氷蘭の我慢も限界に達した、その日だった。
「うっわぁ、きれぇな、神様だぁ」
明らかに痩せ細り、無礼にも氷蘭を見上げて、呆けてそんなふうに口を開くような少女だった。
通常なら侍女がそれを諫めるし、氷蘭もさっさと追い出すように指示をする。
だが氷蘭は、そうすることすらできなかった。
彼女が現れた瞬間、ぴくりとも動けなくなっていたからだ。
「……っ」
心臓がうるさい。上気することなど滅多にない顔が赤く染まる。
氷蘭は、自分の身体の反応に驚愕していた。
だが同時に、目の前に跪く貧相な少女に、愛を請いたくて仕方ない。
「まぁ、まぁ」
左右の侍女が嬉しそうに目を細めて氷蘭を見る。不快なそれを咎める余裕もない。
目の前に座る、痩せこけた少女から目を離せない。
「な……っ、あ……」
みっともなく、言葉を紡ぐことすらできない、信じられない自分の姿。
本能が告げるのはこれだけだ。会えて嬉しい。愛おしい。抱き締めたい。
黒くきらきらした丸い目が、自分を射貫く。
その瞬間、氷蘭の身体中が燃え上がった。
「この方なのですねぇ」
侍女が微笑む。
それが、氷蘭とミツグとの出会いだった。