竜のつがい

6.ふさわしい


「困りましたわねぇ」
「本当に、困りました」

 美嗣は、ほとんど食事ができなくなった。
 だが、侍女のその言葉は、そんな美嗣を心配してのものではない。

 先日の氷蘭の言動は、すぐに屋敷内に知れ渡ることになっていた。
 美嗣はつがいとしてここに招いたのに、氷蘭にはほかにも女性がいるようだ。つがいには魅力を感じないらしい。
 そんな声が囁かれた。

 美嗣は部屋に籠もり、そんな声に耳を塞ぎ、だが、ずっと考えていた。
 自分は、つがいとしての役割も果たせない。ほかの男を作っていいと言われてしまった。見限られた。
 
 つがいをやめたい。
 いつしか美嗣の心には、そんな分相応な思いが過るようになった。

 美嗣はある日、侍女頭にこう尋ねてみた。

「番というのは、どなたかに変わることはないのですか?」
「なんてことを仰るのです!」

 彼女は怒って、二度と美嗣にその質問を許さなかった。
 別の侍女も、二度とそれを口に出すなと言った。

 美嗣は悩んだ。このままでいいはずはない。これでは村にいた頃と同じ、穀潰し。
 そうして悩み続けた美嗣が、ふらふらと屋敷を歩いていた時だった。

「あら、まあ」

 美しい竜人だった。
 色気のある笑み、美嗣に対する視線。
 竜人の屋敷で過ごし、成長してきた美嗣の直感はこう告げた。

 ――この人こそが、つがいにふさわしい。

 美嗣は心からそう思った。

「つがい様。侍女もつけず、どうしてこんなところに?」
「あ、あの、あの……」
「良いのですよ、ゆっくりとお話になって」

 優しい。美嗣は心から感銘を受けた。
 自分のような役立たずのつがいも思い遣ってくれる、

「私、あなたに、相談があって」

 映月は目を細めると、「お茶をしましょう」と美嗣に手招きをした。
< 6 / 8 >

この作品をシェア

pagetop