竜のつがい
6.ふさわしい
「困りましたわねぇ」
「本当に、困りました」
美嗣は、ほとんど食事ができなくなった。
だが、侍女のその言葉は、そんな美嗣を心配してのものではない。
先日の氷蘭の言動は、すぐに屋敷内に知れ渡ることになっていた。
美嗣はつがいとしてここに招いたのに、氷蘭にはほかにも女性がいるようだ。つがいには魅力を感じないらしい。
そんな声が囁かれた。
美嗣は部屋に籠もり、そんな声に耳を塞ぎ、だが、ずっと考えていた。
自分は、つがいとしての役割も果たせない。ほかの男を作っていいと言われてしまった。見限られた。
つがいをやめたい。
いつしか美嗣の心には、そんな分相応な思いが過るようになった。
美嗣はある日、侍女頭にこう尋ねてみた。
「番というのは、どなたかに変わることはないのですか?」
「なんてことを仰るのです!」
彼女は怒って、二度と美嗣にその質問を許さなかった。
別の侍女も、二度とそれを口に出すなと言った。
美嗣は悩んだ。このままでいいはずはない。これでは村にいた頃と同じ、穀潰し。
そうして悩み続けた美嗣が、ふらふらと屋敷を歩いていた時だった。
「あら、まあ」
美しい竜人だった。
色気のある笑み、美嗣に対する視線。
竜人の屋敷で過ごし、成長してきた美嗣の直感はこう告げた。
――この人こそが、つがいにふさわしい。
美嗣は心からそう思った。
「つがい様。侍女もつけず、どうしてこんなところに?」
「あ、あの、あの……」
「良いのですよ、ゆっくりとお話になって」
優しい。美嗣は心から感銘を受けた。
自分のような役立たずのつがいも思い遣ってくれる、
「私、あなたに、相談があって」
映月は目を細めると、「お茶をしましょう」と美嗣に手招きをした。