【改稿版】身代わりお見合い婚〜溺愛社長と子作りミッション〜
「少し肌寒くなってきましたね」

 と私が言うと、

「ああ、でもこれくらいの気温の方が過ごしやすいな」

 なんて他愛のない会話を交わす。

 ただ会社に向かって歩いているだけなのに、ちょっとしたデート気分だ。

 会社の正門に着いたので、「それでは私はこれで」と言って、本館とは別ルートの研究棟に行こうとすると、なぜか社長もついてきた。

「昨日はクリーンルームの視察があまりできなかったから、今日も行こうと思う」

「なるほど、そうですか」

 特に疑問も持たず、社長と一緒に研究棟に入ると、みんなが予想外の組み合わせに驚いて振り返った。

 そこで一旦社長と離れ、タブレットに搭載された勤怠管理アプリを起動していると、主任が忍者のように音も立てずにすり足で寄って来た。

「体調は大丈夫なのか?」

「はい、ぐっすり寝たら治りました」

 主任は少し呆れたような眼差しを向ける。顔には『ゲームで体調崩すなよ』と書いてある。

「それより、どうして社長と一緒に来た?」

「たまたま一緒になったのですよ。一緒に会社に行きましょうって言われたので」

 主任は不思議そうな顔をして考え込んだ。
< 110 / 247 >

この作品をシェア

pagetop