【改稿版】身代わりお見合い婚〜溺愛社長と子作りミッション〜

　切ない気持ちで日本庭園を眺めていると、社長が口を開いた。

「外の庭園には立派な鯉がいるそうですよ。見てみますか？」

「そうなのですね！ 見たいです」

　立ち上がると、ふらりとした。するとすかさず社長が手を差し伸べてくる。

「大丈夫ですか？」

　心配そうな社長の表情。

「大丈夫です。ちょっと飲みすぎちゃったみたいで。外の空気を吸えば酔いも冷めます」

　社長に付き添われながら外に出る。石の敷かれた小道の脇に、竹林や草花が風にそよかに揺れている。

　池の周りには立派な枯山水の庭石が配置され、水面には鮮やかな錦鯉が泳いでいた。

　風鈴の音が涼を運び、苔むす岩には眩しい光が注ぎ込んでいる。

　社長は誰かから電話がきたようで、私に断りを入れると少し離れた距離で電話に出た。

　風に当たれば酔いも冷めるかと思っていたら、むしろ逆だった。歩くたびに酔いがまわる。ぐわんぐわんと脳内が回っている感覚の中、必死に平静を装いながら池を見下ろした。

　周りの音が遮断されていく。

（ああ、これはまずい……）

　と気がついた時にはすでに遅かった。意識を失った私は、そのまま真っ直ぐ池に落ちていった。