ご令嬢ではありません!~身代わりお見合いだったのに、敏腕CEOが執愛に目覚めたようです~
 化粧もしていないし、さすがにそれはないでしょうと思ったけれど、他人行儀な態度を取られている。

「おはようございます、社長。今日も視察でしょうか? おや、こちらの女性は?」

 部長は、貴富さんの後ろに立っていた私を見て言った。

(嘘でしょ、部長)

 さすがにちょっと傷つく。よっぽど私のことが興味なかったのだろうなと思う。

「田中……芳美です」

 気まずそうに名前を告げた私に、研究棟にいた全員が驚いて声を上げる。

(やっぱり気がついてなかった!)

 これで化粧をしていたら、田中芳美ですと言っても誰も信じてくれなさそうだ。漫画じゃあるまいし、そこまでわからないもの⁉

 無遠慮に上から下までみんなから見られて、いたたまれなくなった私は出勤ボタンを押して早々にクリーンルームへと向かった。

 クリーンウェアに着替えるといつもの私に戻ったみたいで安心する。ただ眼鏡をかけていないのでそこは違うけれども。もう度なし眼鏡は卒業だ。
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