【改稿版】身代わりお見合い婚〜溺愛社長と子作りミッション〜
「学会発表に選ばれたかったなんて、芳美は勉強熱心な学生だったのだな」

「違います、私は……」

 貴富さんと同じ舞台に立ちたくて、死に物狂いで研究して、ようやく勝ち取った学会発表。

 何度も練習して完璧に仕上げていったのに、貴富さんの姿はなかった。貴富さんが学会発表で登壇したのは、あの一度きりだった。
 貴富さんは首をひねって私の言葉を待っていた。貴富さんは忙しいし、スピーチする義務もない。

(でも、私は、あなたに会いたい一心で頑張った)

 研究の理由が、憧れの人に会いたいからだなんて、他人が聞いたら失笑ものだろう。

 でも、私にとってはなによりも切実な理由だった。

(あの時からずっと私は……)

 貴富さんをじっと見つめる。学会発表の日、どれだけ私が落胆したか。やっぱり貴富さんは雲の上の存在で、同じ舞台に立ちたいなんて願うこと自体がおこがましかったのだと絶望したあの日。

 それから数年たった今、貴富さんの隣に座っている。
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