【改稿版】身代わりお見合い婚〜溺愛社長と子作りミッション〜
奥の棚には本や医療資料がずらりと並び、その手前には大きなデスクとオフィスチェアが置かれている。そしてカウンセリング用のテーブルや椅子に、大きな観葉植物もある。

産業医である富永 祐樹(とみなが ゆうき)は、白衣を着て、本棚で資料を物色していた。

「おお、貴富。どうした、サボりか?」

 祐樹は入ってきた人物が俺だとわかると、魅惑的な笑みを浮かべた。

 祐樹は、長身で身体つきが良く自信に満ち溢れている。柔らかな茶色の髪に、鼻筋が通った小さな顔。外見は文句なくいいが、鋭い大きな瞳には冒険心が強く悪戯小僧のような輝きを内に秘めている。

属詫産業医として勤務してもらっているが、開業医でもあるのでいつも会社にいるわけではない。

本来であれば産業医は診察や治療は行わないが診療所があるので可能ではある。しかし、産業医の本来の仕事はメンタル面や健康管理のアドバイスが主となるので、診察室ではなく相談室にいる。

だが、俺が祐樹を属詫専業医として雇ったのは、内科医としての腕を見込んで会社の主治医にしたかったからである。専属産業医は他にいるので、祐樹は気楽な息抜き場として会社に来ているようだが、優秀な内科医がいるというのは存在だけでありがたかったりする。

「俺がサボったことあるか? そうじゃない、薬が欲しい」

 俺は怠けたことはないが、祐樹はサボり魔だ。大学時代からそうだったが、それでも学年二位の成績だった。一位はもちろん俺だ。

「よく見たら顔色が悪いな。どうした、ちゃんと食べているのか?」

 祐樹は俺にカウンセリング用のリクライニングチェアを勧めた。

「食べられてもいないし、寝られてもいない」

「仕事が大変なのか?」

「いや、仕事じゃない」

「じゃあ研究か?」

「研究でもない」

 祐樹は俺のまぶたの裏や喉などを診て、考え込んだ。
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