ご令嬢ではありません!~身代わりお見合いだったのに、敏腕CEOが執愛に目覚めたようです~
「ところで、眠れなくなった原因は自覚ありますか?」

「はい。仕事、のことではないのですが。最近、色々ありまして」

「そうですか。そのことについて相談したり話を聞いてもらえる相手はいますか?」

 有紗の顔を思い出す。本当はずっと内緒にしようと思っていたのにできなかった。

「はい、泣きながら話を聞いてもらいました」

 泣きながらって恥ずかしいな。

「それは良かった。とても大切なことです」

 医師は今日初めての笑顔を見せた。おお、私、褒められた。

「ところで、今日来るのは初めてですか? どこかで会ったことがあるような……」

「いえ、初めてだと思います」

 こんな美男子、一度会ったら忘れるわけがない。

「そうですか。おかしいな、一度会った人物は忘れたことないのに」

 医師は不思議そうに首を傾げながら、小声で独り言を呟くように言った。

(ん? そういえば、池に落ちた時、私を診てくれた人って『会社のとても優秀な主治医』とか言ってなかった? まさか)
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