難攻不落の女
 エレベーターに乗って、自席のある人事部に戻ろうとすると、台車の持ち手を掴んだまま、立ち尽くしている若い男が見えた。月に一度、印刷機のメンテナンスと、トナーの替えを届けに来るメーカーの新人社員、笹目綾斗(ささめあやと)だ。

 黒のスーツに白いシャツ、黒の革靴、短く刈られた髪はどことなく落ち着かない。入社して四年目だが、これまでは社内での修理業務が主で、作業服しか着ていなかったと言っていた。服も髪も、まだ本人に馴染んでいないといったかんじが、初々しい。

「何してんの、そんなとこで棒立ちして」
 宇美が声をかけると、笹目はぱっと顔を輝かせた。

「もうすぐ戻ってくるって聞いたので」
「別に私がいないときでも、誰かにメンテナンスの報告したら帰っていいからね。人事部の子たちならわかってるから、サインしてくれるし」

 はい、と気持ちの良い返事をするが、それを聞くのも二回目だ。彼は前回もミーティングのタイミングに訪れて、ここでぼんやりと待っていたのだ。
 とにかくどうぞ、とドアを引いて中に招き入れる。
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