難攻不落の女
「たまには飲みに行かないか」
「どうしようかなー、私は桐谷から恨まれたくないからね」

「大丈夫、相手が宇美なら」
「どういう意味よ」

 新井から見て、もはや自分が女ではないということなのか、それとも桐谷にとっては取るに足らない相手ということなのか。肘で突くが、彼はのんきに笑っている。

「まあたまには新井くんに付き合うか。会議の続きがしたいんなら、個室あるところにする? 私がよく行く店なら、場所を用意してくれると思うけど」
「いや、行きたい店がある」

 それだけ言って、こっち、と歩き出す。帰宅を急ぐ人たちの流れに乗って、線路沿いの道に出た。駅の方に向かっていく。すれ違った別部署の社員からおつかれさまです、と声をかけられた。二人でいることに驚く様子もないままに、すれ違う。
違和感を持たせない関係も、ある意味特異だ。

「新井くんと私って、昔からまったく勘違いされないよね」
「宇美は難攻不落の女って言われてるみたいだからなあ」

「それ、どこの桐谷情報よ」
 嫌味まじりに言うと、新井はバツが悪そうに咳払いした。

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